ジャ・ジャンクー監督の「世界」をDVDで観ました。もう何度目か、この「世界」という映画を観るのは。ジャ・ジャンクーの映画に始めて出会ったのは、長江の山峡ダム建設という国家的な大事業のために水没する古都・奉節が作品の舞台である「長江哀歌」でした。主演の女優チャオ・タオは、「世界」でもダンサー役出てているジャ・ジャンクーの、あまり使いたくない言葉ですが、まさにミューズです。その後、国営工場が閉鎖され、その想い出をドキュメンタリー風に辿った「四川のうた」を観ましたが、あまりピンと来ませんでした。ここでもチャオ・タオが出ていました。今年の初め頃、「青の稲妻」をTUTAYAで借りてDVDで観ましたが、まだブログには書いていません。
「バンドエイド持っていない?」と楽屋を訪ね歩くダンサーのタオ。ここ北京郊外にある“世界公園”で彼女は毎日艶やかな衣裳を身にまとい舞台に立って働いている。ダンサーの仲間からは「姐さん」と慕われている彼女には、ここで警備主任として働いているタイシェンという恋人もいる。しかしタオは観客に振りまく笑顔とは裏腹に、将来に対して漠然とした不安を抱えています。“世界公園”はエッフェル塔やピラミッド、タージ・マハールなど、世界の名所、旧跡など世界40ヶ国109カ所のモニュメントが、10分の一のミニチュアに縮小し、集められているテーマ・パークだ。
タオたちは世界という内側で働き、暮らしながらも、些細な日常の出来事に心を揺らされ続けている。より多くのお金を稼ぐために転職する友人、恋人との結婚が決まった同僚、女であることを利用してキャリアアップを図ろうとする後輩、そして年上の女性に心を動かされ始めたタイシェン・・・。北京の街も2008年の北京オリンピック開催を前に日々大きく変わり始めている中、このミニチュアの世界から出られないという現実も抱えている。そうした中でタオたちは日々を暮らしていく。
心温まる、そして泣けるタオとアンナのエピソードを。寮の洗面所でタオが洗濯していると、ロシア人ダンサーのアンナが横に来ます。アンナは小さな息子2人の写真を見せてくれます。アンナとタオがお酒を飲んでいると、テレビからウランバートルという言葉が聞こえてきます。アンナはウランバートルの歌を歌い、タオも一緒に声を合わせます。タオは、先輩ダンサーに誘われてパーティに行くと、ビジネスマンたちのカラオケパーティでした。一人の中年男にしつこく言い寄られ、逃げ出してトイレに入ると、偶然にもアンナが入ってきます。アンナは今、そこでホステスとして働いていたのでした。アンナの境遇を思ってタオは泣き出します。アークニャンという若い後輩が、荒涼とした建設現場で空を見上げて「飛行機にはどんな人が乗っているんだろう」というので、タオは「わからない、私の知っている人で飛行機に乗った人はいないから」と答えます。その飛行機の中には、ウランバートルへと向かうアンナの姿がありました。
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