国立西洋美術館で「ベルリン国立美術館展」を観てきました。副題はちょっとイミシンなタイトル、「学べるヨーロッパ美術の400年」とあります。19石、プロイセン帝国の首都ベルリンに、国立美術館。博物館が誕生し、国をあげて美術品が蒐集されました。今回の展覧会は、その壮大なコレクションの中から、15世紀から18石までのヨーロッパ美術を観ることができます。ベルリン美術館の選りすぐりの絵画33展、彫刻45展、素描29点が展示されています。
ベルリンといえばドイツ、ドイツといえば、絵画ではデューラー、クラーナハ、彫刻ではリーメンシュナイダーが思い浮かびますが、まあ、正直言って(僕には)あまりなじみの少ない画家や彫刻家たちです。実は僕は、海外旅行には何度か行っていますが、ドイツには行ったことがありません。次に行く時はドイツをメインにしたツアーに行きたいとは思っているのですが、いつになるのか分かりません。
ドイツの建築家ということでは、先日読んだ「ブルーノ・タウト」がまさにドイツ人です。元を正せば、ペーター・ベーレンス、ドイツ最盛期の近代運動をになった人で、ベーレンスの事務所には、ワルター・グロピウス、ミース・ファン・デル・ローエ、ル・コルビュジエの3人が同じ時期に彼の事務所にいました。これは凄いことです。(コルビュジエはスイス人で、旅行中に数ヶ月立ち寄ったようですが)。いずれにせよ、近代建築はベーレンスの「AEGのタービン工場」から始まりました。
ドイツといえば「バウハウス」、グロピウスが初代校長を務め、ハーネス・マイヤー、ミース・ファン・デル・ローエと引き継がれます。しかしナチス政権の圧力から、バウハウスの主要な教授陣はアメリカなどに亡命をせざるを得ませんでした。ブルーノ・タウトも、ナチスの圧力を逃れて日本へ来ますが、大学教授の職にはありつけず、トルコへと移っていきました。
ドイツ人建築家といえば、ヒットラーおかかえの建築家、アルベルト・シュペーアがいましたが、他に、ベルリン・フィルハーモニーの建築家、ハンス・シャロウン、建築構造家のフライ・オットー、アメリカに渡りますがヘルムート・ヤーンもドイツ人です。変わったところでは白井晟一がベルリンに留学して、ヤスパースのもとでカントを学び、つまり哲学を学んだわけですすが、建築については留学中にゴシック建築を観て回ったという。いずれにせよ、日本人建築家がドイツ人建築家から多くを学んだという話は、ほとんどありませんでした。
話は大きく逸れましたが、日本人の建築家には、ドイツはあまり身近ではなかったという話でした。ヨーロッパは地続きなので、ドイツの国境はあってないようなもの、従って、ベルリン美術館展とはいえ、ドイツの絵画や彫刻だけで成り立っているのではないのはもちろんのことです。今回の展覧会もボッティチェッリやミケランジェロはイタリア・ルネサンス、レンブラントやフェルメールはオランダの画家です。なかでも今回の目玉は、フェルメールの「真珠の首飾りの少女」であることは、論をまたないでしょう。さすがにベルリン美術館で所蔵するフェルメールのもう1点の、「紳士とワインを飲む女」まではお借りできなかったようです。
「人物のおこないがやや通俗的で、フェルメール的な魅力に乏しい。表情も説明的で、直立した人体に面白みがない。『手紙を読む青衣の女』も直立ではあるが、その直立の味わいには雲泥の差がある」、これは赤瀬川原平の「フェルメールの眼」のなかに書かれていることです。僕が実物を観てすぐに思ったのは、椅子の鋲が金色ですごく目障りだったこと、テーブルの左下が暗くてなにを描いているのか分からなかったこと、が気になりました。フェルメールの真珠の描き方、「真珠の耳飾りの少女」も観ましたが、これはもう抜群です。フェルメールの絵では真珠の首飾りは11人が着用しているというから、お手のものだったのでしょう。
フェルメールの死後につくられた財産目録のなかに、画家が終生手放さなかった女性用の衣裳「白い毛皮の縁取りが着いた黄色いサテンのマント」が記されていたという。当時の最高級素材を用いた黄色い上着を、画家はしばしばモデルに着せて描いています。さてこの「真珠の首飾りの少女(つける女)」、鑑賞のポイントを、以下に。といっても、「主幹世界の美術館 ベルリン美術館」からの引用ですが、お役に立てるかどうか。
・7点ある「黄色い上着を身につけた女性像」のうちの1点。
・画面の上下を大胆に明部と暗部に分けた構図。
・身繕いをする女性は17世紀オランダで画家たちが好んだ主題。
・画面左上の鏡に向かい、美しさに見とれる姿は、“虚栄心”を表す。
・当初は椅子の坐部にリュートが置かれ、後の壁には地図が掛かっていた。
レンブラントの「黄金の兜の男」、これは現在では“レンブラント派”となっていますが、弟子による工房作と86年に結論づけられたもの。なんとレンブラント本人が描いた可能性のある「黄金の兜の男」を、大阪市の会社社長が所蔵している、というニュースが、2007年2月に毎日新聞の載りました。新聞には、油彩画修復の第一人者で、美術史家の黒江光彦・元国立西洋美術館主任研究官が鑑定し、所蔵者の了解を得て、オランダ「レンブラント調査委員会」で評価を受けたいとしていると書かれていましたが、その後どうなったのか続報がありません。でも、これ、近くで実物を観ると兜の部分の金色がすごい、驚きました。いずれにせよ、いかに戦争が悲惨なものであったのか、そのメランコリックな表情から読み取れると、解説にありました。
クラーナハの「ルクレティア」は、意外と小さい画面でした。以前、「THE ハプスブルグ展」で観たデューラーの「若いヴェネツィア女性の肖像」を観た時にも意外と小さく感じました。しかし、その迫力たるやすごい。クラーナハとマルティン・ルターは親しい友人だったとか、幾つかのヴァージョンがあります。クラーナハが得意としたのは細見で妖艶なヴィーナス像、ベルリン美術館には、「ヴィーナスとキューピッド」という作品もあります。
デューラーの「ヤーコプ・ムッフェルの肖像」、これは毛皮の描き方がすごい。顔の表情がすごい。と、すごいばかり連発していますが。ヤーコプ・ムッフェルは、ニュールンベルクの商人であり、政治家だった人、富と権力を同時にもっていた人です。家人の好きな絵の一つにデューラーの「野兎」があり、滅多にないことですが、絵はがきを本棚に飾っています。これがまた綿密描写で、長い耳を立てている様子が見事に表現されています。ドイツ・ルネサンスは、クラーナハとデューラーという2人の画家により牽引されます。
素描は29点、どれも素晴らしいものですが、ボッティチェッリの「神曲」「煉獄篇」の素描2点、ルーカ・シニョレッリの「人物をせおうふたりの裸体像」、これも迫真に迫るものです。がしかし、やはりこれ、ミケランジェロの「聖家族のための習作」です。先日bunkamuraでレオナルド・ダ・ヴィンチの「ほつれ髪の女」を観ましたが、巨匠二人の素描を並べて観たいものです。さらには「たられば」ですが、フィレンツェ、ヴェッキオ宮殿の五百人広間の壁画「アンギアリの戦い」を観てみたい、というもの。
フィレンツェ・ルネサンスは、産ジョヴァンニ洗礼堂の北扉制作者を決めるコンクールで、ブルネッレスキとギベルディが「イサクの犠牲」を主題として闘ったことに始まるというのが定説です。ブルネッレスキの作品の方がす売れていたにもかかわらず、勝ちをギベルディに譲り、ギベルディは後々、ミケランジェロに「天国の門」と言わしめた洗礼堂東扉に到達します。一方のブルネッレスキは後輩の彫刻家ドナテッlロを従えてローマに赴き、古代建築の研究に取り組み、後々、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のクーポラをつくりあげました。そのドナテッロ、「工房」となっていますが、今回の展覧会のトップバッター「聖母子とふたりのケルビム」という彫刻作品が出されていました。
展覧会の構成は、以下の通りです。
Ⅰ部 絵画/彫刻
第1章 15世紀:宗教と日常生活
第2章 15-16世紀:無枠の肖像画
第3章 16世紀:マニエリスムの身体
第4章 17世紀:絵画の黄金時代
第5章 18世紀:啓蒙の近代へ
Ⅱ部 素描
第6章 魅惑のイタリア・ルネサンス素描
Ⅰ部 絵画/彫刻
第1章 15世紀:宗教と日常生活
第2章 15-16世紀:無枠の肖像画
第3章 16世紀:マニエリスムの身体
第4章 17世紀:絵画の黄金時代
第5章 18世紀:啓蒙の近代へ
Ⅱ部 素描
第6章 魅惑のイタリア・ルネサンス素描
「ベルリン国立美術館展~学べるヨーロッパ美術の400年~」
芸術的想像力あるいは造形感覚というものは、ある程度は伝統や教育に負うものと解釈されがちです。しかしそれでもなお、ヒトのDNAに埋め込まれていたのかもしれない南北ヨーロッパの造形感覚の違いを目の当たりにする時、古代以来の複雑な西ヨーロッパ文化の奥深さや歴史の重みをひしひしと感じることがあります。今回ベルリン国立美術館と共同で開催する「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」は、イタリア絵画や彫刻と、北方絵画や彫刻を同時に見ることにより、歴史とともに成熟したヨーロッパ美術の流れを肌で感じ取ることができるような構成にしています。デッラ・ロッビアの優美な聖母とリーメンシュナイダーの素朴ながらも人を魅了して止まない木彫、フェルメールとレンブラント、白い羊皮紙の上に描かれたボッティチェッリの簡素にして妖艶な素描、情念ほとばしるミケランジェロの素描など、絵画、彫刻、素描など合わせて107点をご覧いただきます。どうぞお楽しみに。
「国立西洋美術館」ホームページ
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