池上英洋の「ルネサンス 歴史と芸術の物語」(光文社新書:2012年6月20日初版第1刷発行)を読みました。たぶん池上の一番新しい著作でしょう。それにしても、ここ数年、矢継ぎ早に池上の著作が出版されています。この急ピッチには驚かされます。僕が最初に読んだ池上の著作は、「血みどろの西洋史 狂気の1000年」(KAWADE夢新書:2007年11月5日初版発行)というものです。巻末の著者略歴には、「中世からバロック時代の芸術家の分析を通じて、社会構造や思想背景を明らかにする方法には定評がある」とあります。ということでは、この「ルネサンス 歴史と芸術の物語」がまさにそのことを指していると思います。
実は、池上の著作「西洋美術史入門」を読んで、美術史に関して、あるいは美術作品に関して、事細かく説明するということでは舌を巻きましたが、ほとんど目新しいことはありませんでした。特に第1章、第2章については、またこの話かと思い、だいぶ飛ばして読みました。第3章以降は、作品の実例を挙げて解説して合ってので、興味深く読みましたが。それもそのはず、池上は「美術史への最初の導入書となることを目的と」していると、“はじめに”で述べていました。
池上の最近の著作、何冊も出ているので、読むのに追われています、というか、追いつかない。下にあげたように、まだブログに書いていないものがあります。それは、「イタリア 24の都市の物語」 (光文社新書:2010年12月20日初版1刷発行)、「西洋美術を知りたい」(学研マーケティング:2012年3月27日第1刷発行)、「レオナルド・ダ・ヴィンチ」(新人物往来社:2012年4月20日第1刷発行)などです。池上の本、出るたびに買っているのですから・・・。「恋する西洋美術史」(光文社新書)もありました。
さて「ルネサンス 歴史と芸術の物語」ですが、本の帯には「教科書では語られない、西洋史の舞台裏へ―」とあります。ルネサンスを解く鍵は、「ルネサンス時代」だけを追ってはなにも分からない、その前の時代、つまり「プロト・ルネサンス時代」から解き明かさなければならない、というのがこの本の一番のポイントです。と、僕は理解したのですが。事実、いわゆるルネサンス時代に関しては、この本の2/3を超えたあたり、136ページの第4章あたりでやっと出てきます。ルネサンスは、初期ルネサンスと後期ルネサンスに分けられます。ここら辺りから、いわゆるルネサンスの話になるわけです。
「プロト・ルネサンス時代」という時代区分、ネットで検索してみたら、「イタリア・ルネサンス美術論―プロト・ルネサンス美術からバロック美術へ」という本が、東京堂出版から出ていました。2000年6月に出ているので、この言葉、一般的なものなのでしょう、僕が知らなかっただけで。皇帝と教皇による二重権力構造を持ち、圧倒的な存在として人々を支配していた中世キリスト教社会が変革を迫られます。中心となるのはペトラクカとボッカチオの2人、そして美術の世界ではジョットが現れます。
下に載せた「イエスの磔刑図」2点、両作品の違いを池上は解説します。一方は、イエスは目をカッと見開いて上方を見つめています。両手両足に釘を打たれて失血死の苦しみにあるはずなのに、苦痛を待ってく感じてないかのようです。もう一方のイエスは、眠るように目をとじ、身体も重みで力なくS字に曲がっています。制作年代はわずか50年、それなのに大きな違いはなぜ生じたのか。聖フランチェスコによる人間的イエスへの転換だったとして、池上は説明しています。
池上は、この本で、「ルネサンスとは何だったのか、それはなぜ始まり、なぜ終わったのか」という3点を論じることに絞ったと言います。なぜルネサンスを学んでいるのか、それはルネサンスが単なる美術の時代様式にとどまらず、当時の社会構造からにじみ出てきた文化のすべて、つまりは激動の時代の“社会のうねり”のようなものだからだといい、そこにこそ、ルネサンスの面白みがある、という。
なお、「第 6 章 ルネサンスの美術家30選」、これは純粋なルネサンス期に限定して絵画・彫刻・建築の分野で活躍した人物の中から30人を選んだものです。1ページに一人、コメントと写真が一枚付いています。
本のカバー裏には、次のようにあります。
ルネサンスとは、15世紀のイタリア・フィレンツェを中心に、古代ギリシャ・ローマ世界の秩序を規範として個展復興を目指した一大ムーブメントを指す。しかし、古代の文化が復興した理由、あるいは中性的世界観から脱する流れにいたって理由を明確に答えることはできるだろうか。ルネサンスとは本来、何を意味し、なぜ始まり、なぜ終わったのか――。皇帝と教皇による二重構造をもち、圧倒的な存在として人々を支配していた中世キリスト教社会は、いかにして変革していったのか。美術との関係だけで語られることの多い、ルネサンスという現象を社会構造の動きの中で読み解き、西洋史の舞台裏を歩く。
目次
はじめに
第 1 章 十字軍と金融
第 2 章 古代ローマの理想化
第 3 章 もう一つの古代
第 4 章 ルネサンス美術の本質
第 5 章 ルネサンスの終焉
第 6 章 ルネサンスの美術家30選
おわりに
池上英洋:略歴
1967年広島県生まれ。國學院大學文学部准教授。東京藝述大学卒業、同大学院修士課程修了。海外での研究活動、恵泉女学園大学文学部准教授を経て現職。専門はイタリアを中心とする西洋美術史・文化史。著書に「Due Volti dell’ Anamorfosi」(Clueb、イタリア)、「レオナルド・ダ・ヴィンチの世界」(編著、東京堂出版)、「ダ・ヴィンチ―全作品・全解剖。」「キリスト教徒はなにか。」(監修、ともに阪急コミュニケーションズ)、「血みどろの西洋史」(河出書房新社)、「恋する西洋美術史」「イタリア24の都市の物語」(ともに光文社)、「西洋美術史入門」(筑摩書房)などがある。
「イタリア 24の都市の物語」
2010年12月20日初版1刷発行
光文社新書
著者:池上英洋
2012年3月27日第1刷発行
監修者:池上英洋
発行所:株式会社学研パブリッシング
発売元:株式会社学研マーケティング
定価:580円
「レオナルド・ダ・ヴィンチ」
2012年4月20日第1刷発行
編著者:池上英洋
発行所:新人物往来社
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