「彼女について知ることのすべて」について、新聞の片隅の小さな広告で知り、しかもカバーには「映画化」とありました。佐藤正午のあの回りくどい小説が映画化されるって、これはどう撮るんだろうと、俄然、興味が沸き、読んでから映画を見るべくアマゾンで購入して一気に読み、読み終わってすぐに映画館へ駆けつけました。とはいえ、上映しているのは渋谷のユーロスペースで、しかも上映は1日1回、夜9時からだけでした。観に行ったのは5月29日、もう1週間以上が経ってしまいました。
真面目な小学校の教師・鵜川に結婚間近の謹厳実直で堅実な同僚教師・笠松三千代、そして男を惑わす魅惑的な看護婦遠沢めい、恋仲になるとその看護婦にヤクザな元彼・真山がいた、とまあ、ありふれた通俗的な設定と、本を読んだときに書きましたが、そこは佐藤正午の小説、けっこう微妙な心理描写が満載です。しかし、それが映画になるとどうなるのか、映画化は不可能と言われていたという。大きくは本の前半の半分はバッサリとなくなっていて、映画としてのストーリーを追うだけで精一杯で、微妙な心理描写を望むことはできません。
映画は、鵜川と三千代がスーパーで買い物をするシーンから始まります。そこで偶然、遠沢めいと出合います。三千代は明らかに嫌悪を露わにして、めいの過去のよからぬ噂を口にします。めいは三千代の中学の後輩でしたが、鵜川には運命的に出会った魅惑的な女に映り、ついついのめり込んでいきます。小説ではほとんどなかった鵜川とめいのセックスシーンは、映画では2度ありますが、濃密でなかなか見応えがあります。他に元彼の真山から強引に迫られますが、観念して自ら真山に抱かれていきます。
やはり謎は、鵜川と共謀して元彼殺しを計画し分担までしていながら、鵜川は停電という事情はあったにしろ実行できず、めいはいとも簡単に単独で実行してしまったことです。そして真山のお墓をつくって、月命日を欠かさない、その辺りは真山の方をこそ、めいは愛していたのかと疑わざるを得ません。鵜川役の三浦誠己は、常に無表情な顔つきで口数が少なく、なにごとも決めきれないその優柔不断さがこの役に適しています。めい役の笹峯愛、僕は初めて観ましたが、体当たりの演技、感情の起伏が激しい役柄が見事だが、デビュー当初は「王様のブランチ」のレポーターをやっていたというから面白い。
以下、とりあえずシネマトゥデイより引用しておきます。
チェック:佐藤正午原作の人気小説を、『行旅死亡人』などの鬼才井土紀州が映画化した驚がくのラブストーリー。ある地方都市でごく普通の生活を送っていた男が、宿命の相手と出会ったことによる熱狂の日々を、激しい性描写や暴力と共に描き切る。ヒロインを体当たりで演じるのは、元「王様のブランチ」レポーターの笹峯愛。その相手を『アウトレイジ』の三浦誠己が演じている。お互いに求め合いながら堕(お)ちていく男女の愛の結末に衝撃が走る。
ストーリー:教職に就いている鵜川(三浦誠己)は、同僚の三千代(赤澤ムック)と付き合っており、そのままいけば二人は無事ゴールインするはずだった。そんなある日、三千代の学生時代の後輩メイ(笹峯愛)が彼らの前に姿を現わしたことから、少しずつ運命の歯車が狂い始める。鵜川はどこか幸薄そうなメイに興味を持ち、次第に彼女の魅力におぼれていく。
「彼女について知ることのすべて」公式サイト
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