角川本社ビルで開催されている「高山辰雄 生誕100年記念特別展」を観てきました。「これからの日本画は、高山を軸にして変貌していくだろう」、という立原正秋の言葉に続けて、チラシには以下のようにあります。
2007年、95歳で没した高山辰雄氏は、生きることの豊饒と不条理を、硬質の叙情を湛えた筆致で描き、新しい高みを求める試みを生涯続けた画家でした。日本画を真に現代的な表現手法として生まれかわらせた巨匠の、代表的作品を揃えた角川コレクションをこの機会にご堪能ください。
高山辰雄:人と作品
1912年6月26日、大分市生まれ。36年、東京美術学校日本画科を首席卒業。在学中から松岡映丘に師事。46年、49年に日展特選、独自の幻想的な画風が評価される。以降、日本芸術院賞、芸術選奨文部大臣賞、日本芸術大賞等を受賞。82年、文化勲章受章。87年から13年間「文藝春秋」表紙絵の原画を制作。97年から98年、『立原正秋全集 新訂版』(角川書店)の全25巻を装画によって彩る。99年、六曲一双の屏風「投華―密教に入る」を高野山真言宗総本山金剛峯寺に奉納。2007年9月14日、没。
今回の「高山辰雄 生誕100年記念特別展」、出品リストを見ると、1階に5点、2階に11点、うちブロンズが2点、2階にはその他、「文藝春秋」表紙絵原画(前期20点、後期20点)、また石版画、銅版画、それぞれ1点ずつ、書籍装画として「立原正秋全集 全25巻」が出されていました。それにしても、角川文化振興財団でこれだけの高山辰雄の作品を所蔵していたことは、僕はまったく知りませんでした。それだけに驚きも大きかったわけですが。
新本社を建てるにあたり、建設時の社長・角川歴彦から高山辰雄に、玄関ホールに展示する作品を依頼、出来上がったのが今回の目玉でもあり、常時玄関ホールに展示してある「存在追憶 限りなき解きの中で」(1998年)という、179.0cm×310.5cmの大きな作品です。1階玄関ホールでは、高山辰雄関連のDVDが2本、流されていました。一つは「高山辰雄履歴書?」で「牡丹」が描かれていて故郷の大分で撮影されたもの、もう一つは、高野山の障壁画「投華 密教に入る」製作中のものでした。(場所が会社の玄関ホールということで、業務中でもあり、来客などの出入りが多く、うるさかった。できれば他の部屋を用意して欲しかった)。
最近、僕が高山辰雄の作品を観たのは、「山種美術館で観た「坐す人」(1972年)です。解説には「苦行荘のような表情で座して瞑想する人物は、周辺の岩肌に溶け込むように描かれ、静寂さを際立たせている。背後には一筋の滝が描かれ、唯一画面に清涼感と動きを与えている」とあります。昭和37年、中国南宋時代の画家・梁楷の「出山釈迦図」(東京国立博物館)に感銘を受けて、「出山」(東京国立近代美術館)を描き、その10年後に「座す人」で仏教的な主題に取り組みました。
高山は、東京美術学校日本画家を卒業後、松岡映丘門下の山本丘人や杉山寧らが結成した研究団体「瑠爽画社」に参加して研鑽をつみ、師映丘没後は「一采社」を結成して、同世代のが形と新日本画の創造を目指してさらなる研究を戦後まで続けました。その中から、ゴーギャンの制作に誘発された色面構成による力強い作風が生まれ、やがて自然と人間に対する想いを重厚な作風で描き出しました。精神的密度の高い人物画や風景画は、晩年まで衰えることなく描き続けました。その根底には生きることへの積極的な皇帝と、生きてゆく人間への深い経巻が見て取れます。(「高山辰雄遺作展人間の風景:挨拶より」)
僕がまとまって高山辰雄の作品を観たのは、練馬区立美術館で2008年9月から11月にかけて開催された「高山辰雄遺作展人間の風景」でした。没後1周期、初期から絶筆までの代表作約100点が展示されていました。その時に厚い壁の四角く開けられた窓から、窓外で一人遊びをする我が子を見つめる若い母親を描いた「冬」(1974年)という作品に惹きつけられました。窪島誠一郎の「私の『母子像』」(清流出版:2008年8月15日初版第1刷発行)に取り上げられていたので、知っていた作品でした。
出展作品 1階
出展作品 2階
ブロンズ作品
DVDの放映(2本)
「高山辰雄生誕100年記念特別展」
自然界と人間存在の豊饒と不条理を、硬質のロマンチシズムを湛えた筆致で描き、新しい芸術性の高みを求め続けた日本画の巨匠・高山辰雄。2007年に亡くなったが、本年6月は、生誕100年にあたる。そこで生誕100年を記念し、その到達点というべき代表作品を中心に、特別展が開催される。今展の展示会場は、角川本社ビルを使用。オフィス内の小さなスペースながら、エッチングやブロンズ像など、未公開作品も出展する、見応えのある記念碑的展覧会となる。《春を待つ》(1984年)、《春光》(1992年)、《青衣の少女》(1992年)、《森》(1985年)、《裸婦》(1948年)、《存在追憶 限りなき時の中に》(1998年)、《少女》(1979年)ほか高山の代表作が並び、さらに、財団が所有する、1987年から13年間にわたり高山が担当した雑誌「文藝春秋」の表紙絵原画も公開される。この貴重な機会に、是非、高山の絵画世界を堪能して欲しい。
著者:高山辰雄
発売日:2007年12月
出版社:角川書店
日本画壇の最高峰、高山辰雄の精神の軌跡を辿る、著者最後の画文集。卒業制作から絶筆(未完成)まで、代表的な絵画20作品を収録。過去の関連記事: