堀江敏幸の「中継地にて 回送電車Ⅵ」(中央公論新社:2023年10月25日初版発行)を読みました。
最初の「回送電車」には、言い得て妙、「文学の諸領域を軽やかに横断する散文集」とあります。全編、力の入っていない文章は、また読んでみたいと思わせます。堀江敏幸の作品は「なずな」を最後に読んでいません。
練習問題を解いているあいだが
最も幸福だと知ったとき、
少年少女はすこしだけ大人に近ずく
言葉と音と時間の
不可思議をめぐる五十二篇。
十一年ぶりの回送電車が
夜中の踏切を通過する
本を読み、読んで書き、また読んで言葉と対話した想いを人に伝えよう。
再現にないこの沃野に身を委ねる喜びが
自分だけのものであってはならないのだから。(「言葉の池をつなぐ」より)
目次
Ⅰ
いちはやき遅れ
割れない言葉
揺れる言葉の甲板で
きくいむしのはなし
蛍を踏みにじること
自転車に御乗んなさい
露店市を切り裂く怖れ
うてなの錬金術
私はあたまをかかえた
勝手にしやがれ
遠まわりの思想
発語のくちびる
Ⅱ
春のなかに春はない
結びし水の解け出すところ
叩くこと
心をつぐ言葉
一向要領を得ないもの 小説の日本語
なにもしないという哲学
片付けた顔を見ているひと
「探りを入れること」『明暗』の書き出しから
雑木林の用足し 小沼丹の周辺から
減速して、左へ寄って 片岡義男小論
鞠足の発する言葉
Ⅲ
「あ」の変幻
うそぶくことについて
文字変換
温かいホットケーキの逆説
面白い
一語とおなじ一文の力
言葉の池をつなぐ
歌でも読む様にして
平日にかがやくもの 寿岳文章「平日抄」
消印のない手紙
棒で結ばれた心
重ねない慎み
貼って剥がしてまた貼ること
なんと言ったらいいのか
ただそれだけを見つめている
見なければならないもの
三本のオレンジの木
Ⅳ
「いいおぢいさんでした」吉田秀和追悼
水天宮のモーツァルト
感謝の言葉しか浮かんでこない
架空の「私」、転倒の詩 アントニオ・タブッキ追悼
礼状の礼状 長島良三さんを悼む
品定めの人 杉本秀太郎さんを悼む
往生を済ませていた人 古井由吉追悼
いま暇ですか、時間はありますか 菅野昭正追悼
最初で最後の頼みごと
中継地にて
美しく逢うこと
初出一覧
堀江敏幸:
1964年生まれ。作家。
主要著書:「おぱらばん」「熊の敷石」「雪沼とその周辺」「河岸忘日抄」「正弦曲線」「なずな」「その姿の消し方」「曇天記」「傍らにいた人」
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