柴崎友香の「あらゆることは今起こる」(医学書院:2024年5月15日第1版第1刷)を読みました。
私の体の中には
複数の時間が流れている。
ADHDの診断を通じて、小説家が自分の内側で一体何が起こっているかを考えた。
ある場所の過去と今。誰かの記憶と経験。出来事をめぐる複数からの視点。――それは私の小説そのものでもある。
他人は自分と感覚が違う、世界を認識する仕方が違う。
自分は自分の身体や認識しか経験できない。
人の感覚を、認識を、絶対に経験できないからこそ知りたい。
その興味と欲望はどうやら私の根源的なもので、
ますます盛り上がってきているらしい。
本文より
最終の診断を受けたあと、ADHDに適用される薬のひとつ、コンサータを飲むことになった。説明を受け、最初の一錠を飲み、しばらくして担当の先生が様子を聞きに来た。「どうですか」「あの、こういうことを言うと、大げさかと思われそうなんですけど」担当の先生が幅広く文学を読む人であることは、検査の途中で知った。だから言っても受け取ってくれるだろうと思った。「小学校六年生の修学旅行で夜更かしして翌日眠たくて、それ以来一回も目が覚めた感じがしなかったんですが、今、三十六年ぶりに目が覚めています」
目次
プロローグ――並行世界
Ⅰ―私は困っている
1 なにもしないでぼーっとしている人
2 グレーゾーンと地図
3 喘息――見た見た目ではわからない
4 助けを求める
5 眠い
6 「眠い」の続き
7 地味に困っていること
8 ADHDと薬
9 ワーキングメモリ、箱またはかばん
10 線が二本は難易度が高い
11 励ましの歌を歌ってください
12 さあやろうと思ってはいけない
13 助けてもらえないこと、助けようとする人がいること
Ⅱ―他人の体はわからない
1 強拍症と「ドグラ・マグラ」
2 時間
3 靴の話
4 靴に続いて椅子問題
5 パクチーとアスパラガス
6 多様性とかダイバーシティみたいな
7 「普通」の文化
Ⅲ―伝えることは難しい
1 そうは見えない
2 「迷子」ってどういう状況
3 視力と不機嫌と客観性
4 ASDキャラとADHDキャラ
5 片づけられない女たち?
6 わからないこととわかること
7 毒にも薬にもなる
8 体の内側と外の連絡が悪い
9 奪われ、すり替えられてしまう言葉
10 気にするか、気にしないか
Ⅳ―世界は豊かで濃密だ
1 複数の時間、並行世界、現在の混沌
2 自分を超えられること
3 旅行できない
4 マルチタスクむしろなりがち
5 私と友達
6 向いている仕事
7 休みたい
エピローグ――日常
おわりに
柴崎友香:
小説家。1973年大阪生まれ。2000年「きょうのできごと」でデビュー(行定勲監督により映画化)。「その街の今は」で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「寝ても覚めても」で野間文芸新人賞(濱口竜介監督により映画化)、2014年に「春の庭」で芥川賞を受賞。2024年に「続きと始まり」で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。他の小説作品に「待ち遠しい」「パノララ」「わたしがいなかった街で」「ビリジアン」「虹色と幸運」「百年と一日」など。エッセイに「よう知らんけど日記」「大阪」(岸政彦との共著)など多数。人文地理学専攻で、場所の記憶や建築、写真などに興味がある。
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