国立西洋美術館で「ユベール・ロベール―時間の庭―」を観てきました。行ったのは4月13日、もう1ヶ月も前のことです。実はユベール・ロベールについてはまったく知らなく、「庭園デザイン」をした人だと聞いていたので行くつもりはありませんでした。が、しかし、「ピラネージ『牢獄』展」も開催していることを知り、そちらの方に興味があって重い腰を上げた、というわけです。ところがどうして、展覧会は行ってみるものです。
フランスの風景画家ユベール・ロベール(1733-1808)は、「廃墟のロベール」として名声を築いたという。「イタリア留学で得た古代もモティーフと、画家の自由な想像力とを糧に描き出させるその風景は、はるかな時を超えて古代の建築や彫像が立ち現れる一方、溢れる木々の緑や流れる水、日々の生活を営む人々がコントラストを成しています」と、チラシにあります。描かれているもののほとんどが「遺跡」あるいは「廃墟」です。まさに建築そのものです。ゆえに、建築家必見の展覧会と言えます。
18世紀はポンペイやヘルクラネウム、あるいはパエストゥムの遺跡発掘に沸いた世紀です。ヨーロッパ中の知識人や芸術家たちがこぞってアルプスを越えてイタリア半島を目指しました。イタリアの人、自然、遺跡、芸術に彼らは魅了されました。ゲーテの「イタリア紀行」はあまりにも有名です。岡田温司の「グランドツアー 18世紀イタリアへの旅」(2010年9月17日第1刷発行)は、「グランドツアーは、イギリスの支配階級や貴族の子弟たちが、教育の最後の仕上げとして体験することになる、比較的長い期間のイタリア旅行のことで、17世紀の末に始まり18世紀後半においてピークに達したといわれる」と記しています。
「ボザール建築図集」(著者:アニー・ジャック/三宅理一、発行:求龍堂、発行日:1987年7月13日)という本があります。エコール・デ・ボザールにおける教育の成果を「建築図」としてまとめたものです。建築科の学生たちの教育は、ローマ大賞設計競技によって動いていました。審査により選ばれた大賞受賞者は、ローマのヴィラ・メディチに何年も留学でき、古典主義の素養にじかに接することができ、フランスに戻れば名実共にフランスの建築を担う建築家の地位に就くことができます。
考古学的な要求により、発掘された遺跡を実測して復原図面を作っておく必要があったことはもちろんです。留学生たちは、長い時間と多くの労力をかけて、対象とする建築や建築群を実測しました。図面の種類も通常の図面と同じく、配置図、平面図、立面図、断面図というもので、場合によってはそれに淡い色で彩色され、それ自体、図面として見栄えのするものでした。その成果をまとめたのが「ボザール建築図集」というわけです。
展覧会の構成は、以下の通りです。
Ⅰ イタリアと画家たち
Ⅱ 古代ローマと教皇たちのローマ
Ⅲ モティーフを求めて
Ⅳ フランスの情景
Ⅴ 奇想の風景
Ⅵ 庭園からアルカディアへ
「ロベールは、正式な留学生ではないながら、伯爵の口利きでフランスアカデミーが置かれたマンチーニ宮での寄宿と勉強が許されます。その後、11年に及ぶイタリア滞在で、ローマ市内外に点在する古代遺跡やルネサンス建築、ヴィラの庭園、周囲の景勝地に広がる自然、あるいは発掘に沸いた南イタリアの眺めを多数の素描に残し、豊かな建築語彙を育んだ」と、図録にあります。
図録にはまた、ロベールとイタリアについて、そして彼の師について書かれています。「ローマの廃墟やモニュメント、あるいはイタリアの思い出といった主題をもつこれらの素描の多くは、ローマとイタリアがロベールに啓示を与えたことの証である」。続けて「ロベールの芸術のあらゆる面が磨かれたのは、彼がローマで過ごした1754年から65年にかけての11年間である」。そして「ローマでロベールは廃墟の風景を描くイタリアの巨匠たちと出合う」とあり、それは「フランスアカデミーで遠近法を教授していた廃墟の画家であり、建築画家、ローマの祝典の画家であるパニーニ(1691-1765)、そして、建築家、考古学者にして、ローマの廃墟の幻視的な版画家で、アカデミーの近くのコルソ通りにアトリエがあったピラネージ(1720-1778)である」としています。
こうしてみると、僕がユベール・ロベールの素描や油彩を、食い入るように見入った、ということがお分かりになったかと思います。興奮冷めやらぬ今、一つ一つ、模写したいという気持ちは、押さえることができません。いや、部分的でもいいから、模写してみたいものばかりです。ローマへは2度訪れており、フォロ・ロマーノやさまざまな遺跡、カンピドーリオの広場を観て回ったことを思い出します。たった2回訪れただけでは、大きなことは言えませんが。下にフォロ・ロマーノとカンピドーリオ広場の画像を載せておきます。
Ⅰ イタリアと画家たち
Ⅱ 古代ローマと教皇たちのローマ
Ⅲ モティーフを求めて
Ⅳ フランスの情景
Ⅴ 奇想の風景
Ⅵ 庭園からアルカディアへ
ローマ1990年
「ユベール・ロベール―時間の庭―」
ポンペイやヘルクラネウムの遺跡発掘に沸いた18世紀、フランスの風景画家ユベール・ロベール(Hubert Robert 1733-1808)は「廃墟のロベール」として名声を築きます。イタリア留学で得た古代のモティーフと、画家の自由な想像力とを糧に描き出されたその風景では、はるかな時をこえて古代の建築や彫像が立ち現われる一方、あふれる木々の緑や流れる水、日々の生活を営む人々がコントラストを成しています。古代への新たな関心を時代と共有しつつ、独自の詩情をたたえたロベールの芸術は多くの人々をひきつけ、時の流れや自然、そして芸術の力をめぐる思索と夢想へ誘ってきました。こうして描かれた奇想の風景は、「国王の庭園デザイナー」の称号を持つロベールが数々の名高い風景式庭園のデザインも手がけ、現実の風景のなかに古代風建築や人工の滝・洞窟などを配していたことを知れば、さらに生きた魅力を持ちはじめることでしょう。本展では、世界有数のロベール・コレクションを誇るヴァランス美術館が所蔵する貴重なサンギーヌ(赤チョーク)素描を中心として、初期から晩年まで、ロベールの芸術を日本で初めてまとめて紹介します。ピラネージからフラゴナール、ブーシェまで師や仲間の作品もあわせ、ヴァランスの素描作品約80点を中心に約130点にのぼる油彩画・素描・版画・家具から構成されます。自然と人工、空想と現実、あるいは想像上の未来と幸福な記憶を混淆させ、画家が絵画と庭園の中に作り上げたアルカディアの秘密に迫ります。
編集:
国立西洋美術館(陳岡めぐみ、中田明日佳)
福岡市美術館(三谷理華)
静岡県立美術館(小針由紀隆)
東京新聞(森優美子、山根陽介)
発行:
国立西洋美術館/西洋美術振興財団
福岡市美術館、静岡県立美術館、東京新聞
「ボザール建築図集」
著者:アニー・ジャック/三宅理一
発行日:1987年7月13日
発行:求龍堂
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