アート・ブロガーの大先輩、とらさん(Art & Bell by Tora )に誘発されて、この記事を書いています。国立新美術館で「セザンヌ――パリとプロヴァンス」を観て、セザンヌについてもう少し詳しく知りたいと思っていたときに、僕にとってはタイムリーに、NHK日曜美術館で「セザンヌ 傑作10選」が放映されました。実は放映された日曜日の朝は用事があって観ることはできなかったのですが、録画しておいたのでそれを使って、以下のような記事を作ってみました。記事が全部出来上がるまでには、まだまだ時間が掛かると思いますが、乗りかかった舟、なんとか完成させたいと思います。以下、編集途中ですが・・・。
NHK日曜美術館「夢のセザンヌ 傑作10選」
出演:山口晃(画家)、三浦篤(東京大学教授)
20世紀近代絵画の父といわれるポール・セザンヌ。多くの画家に影響を与えながら、50年に及ぶ画家人生は、周囲からほとんど理解されることなく、孤独を抱えながらひたすら絵と向き合いました。セザンヌが画家として大きく変わったのは、印象派の画家たちとの出会い。それを期に明るい色彩に目覚め、その後は故郷エクス=アン=プロヴァンスの自然の中で、ひたすら新しい造形の探求を続けます。複数の視点を使って描いた80枚を超える不思議なりんごの絵、無表情な妻の肖像画、自らが感じる永遠なる自然の姿を描こうと、抽象的世界にまでいきつく故郷の山サント=ヴィクトワール山など、同じモチーフを繰り返し描き、格闘を続けました。残されたのは、自由な発想と、大胆な試みで描かれた1000枚を超える作品。それらは、やがてピカソやマチスなどの巨匠たちに大きな影響を与えます。セザンヌの傑作10選を堪能しながら、絵の魅力や表現の秘密を、画家や写真家、世界的セザンヌ研究者などが解き明かしていきます。(NHK「日曜美術館」ホームページより)
「りんごでパリをあっと言わせたい」、そう宣言した画家の絵は名だたる巨匠たちに衝撃を与えました。あのピカソも、こんな言葉を残しています。「僕は何年も彼の絵を研究したんだ。われわれみんなの父のような存在だ」。一見無造作に置かれたりんご。しかし画家はこの絵で絵画に革命をもたらす驚くべき実験を行っていました。
19世紀フランスの画家・ポール・セザンヌ。酷評にさらされながらも孤独に独自の表現を追求しました。何度も繰り返し描いた故郷の山。目指したのは感覚でとらえた自然の色や形を絵にすること。セザンヌはそのために緻密な計算を重ねていました。セザンヌの革命的な実験の数々、そこから生まれた美の秘密で解き明かす「夢のセザンヌ傑作10選」。東京・六本木の国立新美術館。今、世界各地からセザンヌの傑作を集めた大規模な展覧会が開かれています。
レ・ローヴのアトリエ・セザンヌ
セザンヌ晩年のアトリエ。セザンヌが静物画を描くためのアトリエ、今も当時のまま残されている。
傑作10選のまとめ
① りんごとオレンジ
② 台所のテーブル
③ 首吊りの家、オーヴェール=シュル=オワーズ
④ 赤いひじ掛け椅子のセザンヌ夫人
⑤ 座る農夫
⑥ サント=ヴィクトワール山
⑦ トロネの道とサント=ヴィクトワール山
⑧ サント=ヴィクトワール山
⑨ 大水浴
⑩ 庭師ヴァリエ
誰がどのような思いで「傑作10選」を選んだのか、詳細はわかりませんが、僕にはこの「10選」が素直に理解できない、納得できない面が多々あるので、こんなどうでもいい作業をしているわけです。ブリヂストン美術館の例をあげるまでもなく、セザンヌは「静物画(りんごなど)」「風景画(サント・ヴィクトワール山)」「肖像画(自画像を含む)」があるわけですが、「10選」のなかに「サント・ヴィクトワール山」が3点も入っています。それが大きな疑問点です。
傑作10選 ①
セザンヌ60歳。静物画の最高傑作。ドニ・クターニュは「りんごはセザンヌにとって最も重要なモチーフ。セザンヌは「りんごの存在を永遠に留めようとした」と言う。
傑作10選 ②
実はこの絵には複雑な仕掛けがある。セザンヌは「画家というのは者の一面だけ観るのではなく、あらゆる視点で対象を捉えるという使命を背負っている」と。ピカソは「セザンヌは僕の唯一の先生だった。僕は何年も彼の絵を研究したんだ。セザンヌはわれわれみんなの父のような存在だ」と語る。ピカソはセザンヌの技法をヒントに、「キュビスム」という革命的な表現を生み出した。 山口:多視点、一生懸命見ようとした結果、こうなってしまった。三浦:多視点は何のためかというと、最終的に画面上で造形的な秩序を作り上げるという、その結果だ。山口:セザンヌの初期を見ると下手くそだ。三浦:自由な造形への意識がそうしている。
自画像
23歳でパリに出る。30代半ばで描いた「自画像」。
傑作10選 ③
転期となったのは印象派の画家たちとの出会い。「首吊りの家」は印象派時代の代表作。自然の息吹を力強く描いている。
傑作10選 ④
明るい色彩に目覚めたセザンヌは、妻をモデルに数十枚の肖像画を描いている。妻は仮面のように無表情で、顔はまるで玉子のよう。色彩で存在感を与える。
傑作10選 ⑤
どっしりと座る農夫の姿を大胆なタッチで描いた
セザンヌは白い塗り残し、下地が見えているところ
顔にも背景の壁にも 画商の長谷川徳七は「塗り残したところにふっと一瞬のあたたかみとか、ホッとする感じ、気持ちの穏やかさとか、観る側に感じ取れる」と言う。色を塗らないという手法まで使って色彩の可能性を
サント=ヴィクトワール山
40歳を過ぎてもまったく認められない日々、セザンヌはパリを離れる決意を固めます。失意の中で戻った故郷、プロヴァンス。標高およそ1000m、石灰岩の白い岩肌が特徴のサント=ヴィクトワール山。
傑作10選 ⑥
松の枝越しに緑豊かな田園風景。その先にそびえるサント・ヴィクトワール山。パリにはない自然豊かな自然に心かき立てられたセザンヌの感動が映し出されている。「サント・ヴィクトワール山を見てみなさい。何という勢い、何という太陽の激しい渇き、そして何という憂鬱。夕暮れには重苦しさが戻ってくる。あの岩肌はかつて陽だったのだ。まだその日が燃えさかっている」と。
傑作10選 ⑦
セザンヌが生涯に最も多く描いたのがサント・ヴィクトワール山の風景でした。なぜ何度も繰り返しこの山を描いたのか。「自然にならって絵を描くことは、対象をそのままに描き写すことではない。感覚を実現することなのだ」とセザンヌは言う。感覚を実現する、その言葉を読み解くヒントとなるのがこの一枚、「トロネの道とサント=ヴィクトワール山」。本格的にサント=ヴィクトワール山を描くようになって10年が経った作品。初期の頃よりも色や形が単純になり、まるでパッチワークのように。セザンヌは眼に見える風景ではなく、感覚でとらえた風景を描こうと、模索を続けていたのです。
傑作10選 ⑧
ポール・セザンヌ
セザンヌは晩年、特に力を入れて取り組んだもう一つのテーマがあります。神話に登場する水浴する裸婦をモチーフにした「大水浴」。縦横2mを超す大作です。あえて伝統的なモチーフに挑みました。本来裸婦は美しく描くもの、しかしセザンヌは違います。まず木の幹と小川が作る三角形、さらに裸婦たちも小さな三角形で描かれています。三角形は最も安定した美しいポーズを生み出す古典絵画の手法です。セザンヌは三つの三角形を重ね合わせ、揺るぎない構図を生み出しています。水浴する裸婦たちの前に座るセザンヌの姿。
傑作10選 ⑨
「セザンヌがこの絵で描こうとしたのは、自然と人間の調和でした。その調和が理想的な秩序で構成された世界を一枚の絵で表そうとしたのです。そのために古典絵画の方法を使って理想を実現することに執念を燃やしました。それはセザンヌにとって絵画の頂点へと上りつめる最後の挑戦でした」とドニ・クターニュは語ります。これほど大きな作品に挑むのは若い頃にはなかった。まさに画業の集大成を成し遂げようとしたのです。セザンヌは、「絵を描くということは、客観的に捉えたものをその通りに写し取ることではなく、様々な関係の間にある調和を捉えることであり、それは新しい原則に従って組み立てることなのだ」と語ります。
傑作10選 ⑩
最晩年に描かれた「庭師ヴァリエ」。仲よくしていた庭師の姿を、震えるようなタッチで描きあげています。その揺るぎない存在感は、画家自身の姿を重ねているようです。この絵を描いた年、セザンヌは製作中に倒れ、帰らぬ人となりました。自らの信念を貫き、独自の美を追い求めた生涯でした。
会場の司会者とゲスト
パリ
エクス=アン=プロヴァンス
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