「東洋美術の殿堂」、アメリカノボストン美術館はまた、「海の向こうの正倉院」とも言われ、フェノロサや岡倉天心に始まった100年以上にわたる日本美術の収集は、今や総数10万点を超すと言われています。「ボストン美術館 日本の至宝」は、そのなかから厳選された仏像・仏画に絵巻、中世水墨画から近代絵画、染織・刀剣まで、約90点で紹介されている、「里帰り」の展覧会です。長谷川等伯、尾形光琳、伊藤若冲などの名品は、海を渡った「まぼろしの国宝」ばかりです。
なかでも曾我簫白の作品は、圧倒的な迫力で観る者を驚かせます。ここでは「ボストン美術館 日本の至宝」の「第5章 奇才曾我簫白」に焦点を当てて、11点すべてを以下に載せておきます。現在、千葉市美術館で、「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」が開催されています。展示替えを含めて約60点の簫白作品が登場します。時を同じくして開催されたことに、曾我簫白理解は深まり、意義深いと思います。
ボストン美術館の曾我簫白コレクションについては、簫白研究者として名高い辻惟雄が、「ボストン美術館の曾我簫白コレクションについて」と題して、図録に論文を書いています。日本での近頃の「簫白ブーム」は、言うまでもなく、辻惟雄の「奇想の系譜」（美術出版社：1970年3月初版）で、岩佐又兵衛、狩野三雪、伊藤若冲、長沢蘆雪、歌川国芳らとともに、簫白も取り上げられていたことによります。奇矯（エキセントリック）で幻想的（ファンタスティック）なイメージの表出を特徴とする彼らを､辻は「奇想」という言葉で定義しました。
ボストン美術館の日本絵画のコレクションはおおよそ数千点あり、簫白画はそのうち約127点あったという。これらの簫白画をボストンにもたらしたのは、フェノロサとビゲローで、そのうちおよそ9割はビゲローのものだったという。フェノロサの収集した簫白画はほとんどが屏風で、どれもできの良いものだったのに対し、ビゲローの集めた簫白画は、数の割りに屏風絵が少なく、真偽の疑わしいものも含まれていたという。そのなかに「雲竜図」が含まれていたことはビゲローの功績として特筆されるべきだと、辻は言う。
簫白の水墨画のなかでも破格の表現によるこの大作は、今回の「ボストン美術館 日本の至宝」では、もちろん、簫白の「雲竜図」は目玉の作品です。19世紀末にボストンに渡ってきたときには、4枚の表具のない作品でしたが、それを本来の8面の襖に戻し、汚れや作品をそこなう過去の修復を取り除きました。「このことによって筆遣いの力強さが一層鮮明になり、簫白画絵に注いだエネルギーを感じとることができるようになった」と、ボストン美術館日本美術課長のアン・ニシムラ・モースは語っています。
簫白の作品は、元の通り襖絵8面に改装された「雲竜図」、もと襖2面分の「鷹図」をはじめ、六曲一双屏風2点、六曲片双屏風4点、二曲片双屏風2点と、襖絵・屏風絵が合わせて10点が展示され、それに掛け軸1点が加わります。今回のように大画面がまとめて展示されるのは初めてのことだという。「雲竜図」や「朝比奈首曳図屏風」、六曲一双の「山水図屏風」と「酔李白図屏風」、「鷹図」2点は、日本初公開です。
「簫白は、あふれるエネルギーを画面に打ちつけたような直情的画風を持つが、そこには幻想的な空気が流れている。シニカルなまなざしとユーモアが共存する不思議。奇矯な言動で知られる簫白の、最初期から晩年の作品までが揃う。ボストン見ずして簫白は語れない」と、図録に書かれています。
第5章 奇才曾我簫白
東京国立博物館140周年
特別展「ボストン美術館 日本美術の至宝」
アメリカのボストン美術館は、"東洋美術の殿堂"と称されます。100年以上にわたる日本美術の収集は、アーネスト・フェノロサや岡倉天心に始まり、今や10万点を超えます。海外にある日本美術コレクションとしては、世界随一の規模と質の高さを誇ります。本展は、その中から厳選された仏像・仏画に絵巻、中世水墨画から近世絵画まで、約90点を紹介します。修復を終え、日本初公開となる曽我蕭白(そがしょうはく)の最高傑作『雲龍図』をはじめ、長谷川等伯(はせがわとうはく)、尾形光琳(おがたこうりん)、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)などの手による、かつて海を渡った"まぼろしの国宝"とも呼べる日本美術の至宝が一堂に里帰りします。
「ボストン美術館 日本美術の至宝」
2012年3月20日発行
編集：東京国立博物館
名古屋ボストン美術館
九州国立博物館
大阪市立美術館
ボストン美術館
NHK
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発行：NHK
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