柳美里の「南相馬メドレー」(第三文明社:2020年3月11日初版第1刷発行)を読みました。
メドレーというのは、間にナレーションなどを入れずに、いくつかの曲を続けて演奏することです。
ある曲では、私の人生における劇的な変化を奏でています。
ある曲では、朝起きて夜眠るまでの単調ともいえる日々の暮らしを奏でています。
ある曲では過去の悲しみを奏でているかもしれません。
未来に向かうということは、過去を置き去りにすることではありません。
未来に一歩足を進めることに、その一歩分の過去を担うことができる、あるいは、過去に一歩足を進めるごとに、その一歩分の未来を担うことができる。
さぁ、わたしが歌う「南相馬メドレー」を聴いてください。
(「はじめに」より)
知らない場所を迷いながら歩く時は、緊張で硬くなった体を自分と世界を隔てる境界線のように感じますが、よく知っている場所を歩く時は、自分と世界の境界線が溶け、体と心が世界に解き放たれるような気がします。
そんな時、わたしは歩きながら、歌を口ずさみます。
今日もわたしは、夕日の赤が静かに広がる南相馬の町を、小声で歌を口ずさみながら歩いています。
いま、ここに在る、という自分の位置を確認しながら…。
(「あとがき」より)
南相馬メドレー もくじ
はじめに
2015年
南相馬に転居した理由
台所の正方形の窓
漂泊の果てに
2016年
南相馬での年越し
教壇に立つ
三月十一日
記憶の中のおにぎり
信頼の味覚
猫の心、猫の命
九・四キロ
死者と共に
息子の成長と帰るべき場所
「悲しんでいる人たちの前では喜べないよね」
「フルハウス」
常磐線復旧
2017年
他者を希求し、受け容れられるように
先生の雅号は「明雨」
「もう、梨作りはすることはない」
倫理の行き止まり
「あの家を生かしてもらえれば・・・」
お墓参り
女川駅舎の紙製のベンチ
大いなる力とあやとり
緑の糸
2018年
良い本との出会い
北海道へと旅立つ息子
真っ白な景色
最後の避難所
五十歳
「青春五月党」復活
稽古開始
再演を誓う
無謀な状況には無謀さを持って立ち向かう
二〇一九年の目標
2019年
ニューヨークでの最後の暮らし
山折哲雄さんとの対談
「りょう」として語る自らの体験
「静物画」東京公演を終えて
小高の桜並木
甲虫好きな息子
「転」の連なり
共に過ごせる今
「ある晴れた日に」
「こういう時こそ、小説や芝居が必要だ」
悲しみを追悼する
知ったことの責任
あとがき
謝辞
柳美里:
小説家・劇作家。1968年、茨城県土浦市生まれ。神奈川県横浜市育ち。高校中退後、劇団「東京キッドブラザース」に入団。俳優を経て、1987年演劇ユニット「青春五月党」を結成。1993年、「魚の祭」で、第37回岸田國士戯曲賞を受賞。1994年、初の小説「石に泳ぐ魚」を「新潮」に発表。1996年、「フルハウス」で、第18回野間文芸新人賞、第24回泉鏡花文学賞を受賞。1997年、「家族シネマ」で、第116回芥川賞を受賞。著書多数。2015年から福島県南相馬市に移住。2018年4月、南相馬市小高地区の自宅で本屋「フルハウス」をオープン。同年9月には、自宅敷地内の「LaMaMaODAKA」で「青春五月党」の復活講演を実施。
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