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安倍公房の「飛ぶ男」を読んだ!

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安倍公房の「飛ぶ男」(新潮文庫:令和6年3月1日発行)を読みました。

 

鬼才・安倍公房 幻の遺作

死後、フロッピーディスクに残されていた原稿が

待望の文庫化!

 

ある夏の朝。時速2、滑空する物体がいた。<飛ぶ男>の出現である。目撃者は3人。暴力団の男、男性不信の女、とある中学教師・・・。突如発射された2発の銃弾は、飛ぶ男と中学教師を強く結びつけ、奇妙な部屋へと女を誘う。世界文学の最先端として存在し続けた作家が、最後に創造した不条理な世界とは。死後フロッピーデスクに残されていた表題作のほか「さまざまな父」を収録。

 

初期の作品である「砂の女」、「他人の顔」から、後期の「方舟さくら丸」、そして未完の遺作となったこの「飛ぶ男」に至るまで、安倍公房の作品には一貫した問いかけがあると感じる。それは、人間は常に閉ざされた王国を自分の内部に作り上げようとする、が、それは決して自己完結した宮殿として完成することはない。むしろ閉ざされた空間は何らかの方法で世界に向かって開かれなければならない。そうでなければ生命は生命たることができない。その方策を何とかしてでも探究しなければならない。こんな問いかけである。言い換えれば、安倍公房は終生、内部の内部に外部との絡路を探し求めた作家、ということができると思う。

・・・

安倍公房は「飛ぶ男」において、内部の内部から外部への絡路を開くための画期的な実験を、時空を自在に飛行する”飛ぶ男”の言葉を駆使して行おうとしていた。硬直した分断の言葉に流動性を与えようとした。つまり言語の粘性を溶かそうとした。もし「飛ぶ男」がかんせいしていたなら、世界は、あるいはホモ・サピエンスは、もう少しだけ利他と共生に接近した、新しい<Y>のありかたに気づけたかもしれない。この意味において、進歩と調和ではなく、むしろ停滞と分断がさらに進行する今こそ、安倍公房は読み直されるべきだし、こうして「飛ぶ男」が文庫化される現代的意味があると思われる。

(「安倍公房―内部の内部に外部を探し求めた作家―」福岡伸一)

 

安倍公房:

東京生まれ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年「壁」で芥川賞を受賞。62年に発表した「砂の女」は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、「緑色のストッキング」で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。73年より演劇集団「安倍公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、92(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。93年急性心不全で急逝。2012年、読売新聞の取材により、ノーベル文学賞受賞寸前だったことが明らかにされた。

 

「安倍公房とわたし山口果林」

2013年8月1日第1刷発行

著者:山口果林

発行所:講談社

山口果林の「安部公房とわたし」を読んだ!

 

「方舟さくら丸」

<純文学書下ろし特別作品>

1984年11月15日発行

著者:安倍公房

発行所:新潮社

 

 


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