佐伯一麦×小川洋子「川端康成の話をしようじゃないか」(田畑書店:2023年4月16日発行)を読みました。
佐伯一麦と小川洋子、微に入り細に入り、よくぞここまで川端康成を読みこみました。それだけでも感動ものです。
余りにも哀しく、
あまりに美しい・・・
こんな川端康成の姿を
私たちは知らなかった
没後半世紀を経て
いまなお読み継がれる
川端文学の魅力を
二人の作家が語り明かす
一人の作家の作品をここまで集中して読む経験は、かつてなかった。毎日毎日、川端川端。佐伯一麦さんのお好きな「みずうみ」になぞらえれば、水草が揺らめく湖の底を、這い回るかのようだった。そして目を凝らすと、底を埋め尽くす砂粒はみな、か、わ、ば、た、や、す、なり、という文字の形をしているのだ。その一粒でもいいから指先でつまんで、口に含んでみたい。何度も、そんな欲望にかられた。そのたびに水草が足に絡まり、ぬるっとした感触にはっとして、我に返るのだった。(小川洋子)
この夏は、本書の対談のこともあり、仕事の合間に、ぬるめの風呂に浸かりながら、魔界を描く嚆矢となった「山の音」を文庫本で少しずつ再読し、主人公の尾形信吾が六十二歳と、今の私とほぼ同じ年回りであることに、あらためて感じ入らされた。もっとも、戦後間もない頃の六十二歳は、現在の七十代後半から八十代にあたるだろうか。(中略)(小川さんと)じっくりと話を交わすのは、ずいぶんひさしぶりだったが、対談では時間がつながったように話が弾み、よい時を過ごすことができた。(佐伯一麦)
目次
対話Ⅰ 川端文学を貫いているもの
川端康成と伊藤初代
川端文学との出会い
「手書き」独特のアナグラム
川端文学のグロテスクさ
「佛界易入 魔界難入」
「死」に魅入られて
対話Ⅱ 「掌の小説」を読む
川端康成の「私」
確かな”モノ”の手応え
「長編型」と「短篇型」
「負のエネルギー」が作り出すブラックホール
「十六歳の日記」について
グロテスクと新しいリアリズム
対話Ⅲ 世界はまだ本当の川端康成を知らない
「雪国抄」が語りかけてくるもの
川端康成は「小説」を書いてなかった!?
「山の音」について。あるいは「純文学」とは何か
川端作品のベストは何?
附 見えないものを見る―「たんぽぽ」 小川洋子
遵守された戒律 佐伯一麦
引き返せない迷路 小川洋子
川端再読 佐伯一麦
あとがき 小川洋子/佐伯一麦
小川洋子:
1962年、岡山市生まれ。早稲田大学文学部第一文学部卒。88年「揚羽蝶が壊れる時」で第7回海燕新人文学賞を受賞。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。2004年「博士の愛した数式」で読売文学賞、本屋大賞、同年「ブラフマンの埋葬」で泉鏡花文学賞を受賞。06年「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞受賞。07年フランス芸術文化勲章シュバリエ受章。13年「ことり」で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。20年「小箱」で野間文芸賞を受賞。21年、菊池寛賞を受賞。近著にエッセイ集「からだの美」がある。
佐伯一麦:
1959年、宮城県仙台市生まれ。仙台第一高校卒。84年「木を接ぐ」で第3回海燕新人文学賞を受賞する。90年「ショート・サーキット」で野間文芸新人賞、91年「ア・ルース・ボーイ」で三島由紀夫賞、97年「遠き山に日は落ちて」で木山捷平賞、2004年「鉄塔家族」で大佛次郎賞、07年「ノルゲNorge」で野間文芸賞、14年「還れぬ家」で毎日芸術賞、「渡良瀬」で伊藤整賞、20年「山海記」で芸術選奨文部科学大臣賞をそれぞれ受賞する。近著に「Nさんの机で」がある。