藤本壮介の「地球の景色」(エーディエー・エディタ・トーキョー:2023年4月28日発行)を読みました。
世界を駆ける気鋭の建築家が紡ぎ出す、
感性と思考のエッセイ集
「GA JAPAN」で、2015年1月から8年にわたって連載したエッセイを書籍化したもの。
振り返ってみると、この8年間は自分の人生の中でもたくさんの大切な出来事があった時期に重なっていて、とても感慨深い。それらのかけがいのなあい時間の中で、訪れた場所や、見たものたち、そして感じ、考えたことを文章にして残すことができたのは、ぼく自身にとって貴重なものであった。
改めて読み直してみると、建築や都市についてばかりでなく、日々の生活の中でのささやかな気づきや、ときに深く物事の本質を思考し、また社会や世界のありようを大きな視点で見ていくなど、本当にいろいろなことを自由に描いていくことは楽しかった。
思いつくままに描いていったこれらの思考は、この8年でずいぶん変化し、また深められたと思う。その一方で、8年間ずっと同じことの周りを巡りながら思考し続けているようにも思う。ひとつの主題をめぐって無数の変奏が生まれ永遠に新しく生まれ変わり続けるバッハのゴルトベルク変奏曲のように、多様でありながら同時にひとつである。それは建築と世界のありようそのものかもしれない。(以上、「あとがき」より)
「森」のような建築をつくりたい
大学卒業後、大学院に進学せず設計事務所にも所属しないまま、言わばニートのような期間を過ごし建築と向き合える大きな時間を手に入れた。
手掛ける仕事は住宅から大規模建築、インスタレーション、パビリオンなど非常に幅広い。
近年は国内のみならず、海外でのコンペにも数多く勝利し、世界に活躍の場を広げている。
「森」のような建築をつくりたいという氏の作品は、幾何学的な要素がグラデーションするように徐々に存在感を消していき、建物の内と外をはっきりとさせる壁や天井といった建築の基本的な要素を曖昧にすることで、自然と構造物がナチュラルにつながる。
「森」はそこに住む動物、人、植物、それぞれにとって必要なもの、不必要なものが無秩序に存在するが、その無秩序なものが緩やかに繋がり共存し合っている。
建築を作る上で、何が何にとって必要で何が不必要なものなのか、それを見極めることは難しい。
限りなく対極にあるようにも感じられる自然と人工物の繋がりを見つけ出し、森を作り上げるという難題に挑んだ作品が、世界中でどんどん増えていくことが楽しみだ。
1. カフェの一杯から都市の軸線まで
パリ 東京 ロサンゼルス
2. 建築を道として思考する
イスタンブール シカゴ ニューヨーク
3. 都市と建築と時間の肌理
成都 香港 パリ
4. その時その場所にしか存在し得ない特別さ
上海 ロサンゼルス シンガポール
5. スケールの多重奏と建築的生態系
ロンドン キプロス ウィーン
6. 芸術家的感性と科学者的実験精神
サンチアゴ シカゴ パリ
7. 建築空間を見る「こちら側の身体」
シンガポール 東京 ドバイ パリ
8. プログラムと環境と空間の形式
バリ島 パリ
9. 喜望峰へ向かう一本道で考える
ケープタウン コーネル大学
10. 時間を超越した異様さという特異点
ミラノ ニューキャナン
11. スケールにまつわる機能主義の本当の意味とは
ロサンゼルス ベルリン シンガポール
12. 空間的と時間的,両方の広がりを伴うもの
ニューヨーク 南フランス
13. 新しいプログラムには新しい建築を 中国の村
ニューヨーク ザグレブ 香港
14. 無限に異なる理想都市の姿を建築に追い求めて
リール アムステルダム
15. 人間社会に対する夢と理想と知性が生き続ける
チャンディガール
16. 歴史と世界と未来を信じて無心に飛び込んでいく
ジャイプール アーメダバード
17. 大きな流れの中で豊かな世界に耳を澄ますこと
ニース パリ
18. モノと空間の際どい関係性
ハノイ セゴビア
藤本壮介
19. 多次元的な立体都市空間 22. 歴史に翻弄され,連動し,そしてつくり上げる アルジェ ティパサ ダブリン 32. 現在の分断から未来の統合への希望 34. 偶然性の重なりがつくる多様性/意図がつくるもの, 40. 空間ですらない存在そのものの秘密とは 41. 多様さを受け止める究極の場としての循環する「自然」 42. 「近代」の終焉を考える 44. 「提案」や「表現」などが薄っぺらく思えるその先へ 45. 現代建築への深い危機感/「それでもそこにつくる」こと
藤本壮介:略歴/受賞歴1969年 北海道生まれ 2000年 藤本壮介建築設計事務所設立 2004年 JIA新人賞(伊達の援護寮) 2008年 JIA日本建築大賞(情緒障害児短期治療施設) 2020年 2025年「大阪・関西万博」会場デザインプロデューサー
進行中のプロジェクト
津田塾大学 小平キャンパス [東京都] |