多和田葉子の「カタコトのうわごと(新版)」(青土社:2022年5月30日第1刷発行、2023年2月10日第2刷発行))を読みました。
多和田葉子が日本語で書いた最初のエッセイをまとめたもの、です。
読み返してみると、「若い人が書いたエッセイ」という感じがして少し気恥しいが、その感触にはどこか肌の柔らかさとみずみずしさがあって、今のわたしにはそのナイーブさが羨ましくもある。「ナイーブ」という単語はドイツ語では完全に否定的意味合いを持つが、日本語の場合は肯定的な意味合いを持つこともある。(「新版のたあめのあとがき」より)
「ドイツで書く嬉しさ」と題して、こう述べています。
ドイツで暮らしていて一番嬉しいことは何? と聞かれたら、人との交流の豊かさ、と答えると思う。自分とは違う世界で育った人たちとの交流、それもドイツ人だけではなく、東欧圏やイスラム圏などのいろいろな国からドイツに入ってくる作家たちと言葉を交わすことが日常茶飯事である環境が、ここで暮らしていて何よりもありがたい。
多和田葉子の初期の作品、「かかとを失くして」や「犬婿入り」の創作秘話が聞けたのはうれしい。
国立市の幼年時代について直接書いたのは、「生い立ちという虚構」が最初で最後だったような気がする、と書く。
僕が興味を持ったのは次の三篇。「翻訳者の門―ツェランが日本語を読む時」、「ハムレットマシーンからハムレットへ」、「身体・声・ハイナー・ミュラーの演劇と能の間の呼応」、いずれも僕にとっては難しい論文です。が、慎重に読めば、伝わってくるものが多い。
多和田葉子:
1960年東京生まれ。1982年にハンブルグに移住、2006年よりベルリン在住。「かかとを失くして」で群像新人文学賞、「犬婿入り」で芥川賞、「ヒナギクのお茶の場合」で泉鏡花文学賞、「球形時間」でBunkamuraドゥマゴ文学賞、「容疑者の夜行列車」で伊藤整文学賞・谷崎潤一郎賞、「尼僧とキューピッドの弓」で紫式部文学賞、「雪の練習生」で野間文芸賞など、受賞多数。ドイツ語と日本語で精力的に作品を書き続ける。1996年にはドイツ語での作家活動によりシャミッソー文学賞受賞。2018年「献灯使」で全米図書賞(翻訳文学部門)受賞。
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