小川洋子の「偶然の祝福」(角川文庫:平成16年1月25日初版発行、令和元年12月15日22版発行)を読みました。
小川洋子は、芥川賞の選考委員です。先般の芥川賞選評で、井戸川射子の「この世の喜びよ」と佐藤厚志の「荒地の家族」について、以下のように書いています。「魅力的な個性を放つ候補作がそろう中、最終的に「荒地の家族」と「この世の喜びよ」の二作に丸をつけた。二作はともに、平凡な人間の毎日を描く、という点で共通していながら、全く異なる世界の見え方を示している」と。
この評で、小川洋子の立ち位置がおおよそわかる、と言うもの。
最近、小川洋子の文庫本を数冊購入しました。これで溜まっているのも含めて10数冊、さて、どれから読もうかと、いつも考えています。
かなり古い本ではありますが、まず「偶然の祝福」を読んだのは、解説が川上弘美、だったからです。川上弘美が解説していると聞いて、単行本を持っているにもかかわらず、解説のある文庫本をわざわっざ購入したことがあります。著者と本の題名が思い出せない。まあ、それはともかく、「偶然の祝福」の解説で川上弘美は、「変化の段階」と題して、次のように書いています。
「新刊が出たら必ず買う」という作家が、何人かいる。小川洋子と言う作家も、私にとってはそのうちの一人だ。信頼できる作家、と言えばいいだろうか。追いかけている作家、と言ってもいいかもしれない。ゆっくりと気儘に追う作家が何人かいて、その作家たちの本をまだ読みつくしていない時、私は幸せである。
この記事は2001年2月18日付「朝日新聞読書面」に書かれたもので、僕も朧気ながら読んだ記憶があります。
追いかけている作家の、「どの作品が一番好きですか」と聞かれることがある。これは困る。・・・。本短篇集の中の一篇、「キリコさんの失敗」を読みながら、つらつらそう考えた。お手伝いさんである「キリコ」さんと、少女である「私」の、不思議な交流を描いた物語である。珍しく、私は断言しようとしているのだ。小川洋子の短篇の中で今一番好きなのは「キリコさんの失敗」だ、と。
小川洋子はどちらかといえば、「劇的な変化」を見せない作家である。どの時代の作品の中でも、「小川洋子的世界」は高次な心地よい安定感を保っている。・・・小川洋子は新しい面を見せてくれたのだろうか。いやいや、そんなことはない。それは元々小川作日bんの中にあったものなのだ。ただ、私には見えていなかった。
・・・それを承知のうえで、しかし断言してみようではないか。短篇集なら本書、長篇なら「ホテル・アイリス」が小川作品の中の現時点での私のベストだ、と。
目次
失踪者たちの王国
盗作
キリコさんの失敗
エーデルワイス
涙腺水晶結石症
時計工場
蘇生
解説 変化の段階 川上弘美
小川洋子:
1962年、岡山市に生まれる。早稲田大学第一文学部卒。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞を、91年、「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞。2004年には「博士の愛した数式」で読売文学賞及び本屋大賞、「ブラアフマンの埋葬」で泉鏡花文学賞、06年に「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞、13年に「ことり」で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。その他の著書に「猫を抱いて象と泳ぐ」「原稿零枚日記」「最果てアーケード」「いつも彼らはどこかに」「琥珀のまたたき」などがある。
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