小川洋子の「小川洋子の偏愛短篇箱」(河出文庫:2012年6月20日初版発行、2022年10月30日5刷発行)を読みました。
本書は2009年3月、単行本として刊行されたものです。
「この箱を開くことは、片手に顕微鏡、片手に望遠鏡を携え、短篇という王国を旅するのに等しい」小川洋子が「奇」「幻」「凄」「彗」のこだわりで選んだ短篇作品集。谷崎から田辺聖子まで。各作品ごとに書き下ろしエッセイ付き。
「文庫本あとがき」で小川洋子は、次のように書いています。
今振り返ってみても、このアンソロジーを編むのは心弾む作業でした。思い浮かぶまま自分の0好きな短篇をノートに書き出し、本棚をかき回して作品が載っている本を探しているうち、思いがけない再会が次々と訪れ、「あっ、しまった。こんな大事な短篇を危うく見過ごすところだった」と何度もつぶやく事態に陥りました。そして本箱の前に座り込み、あれもこれもと読みふけっているうち、一体何のために自分がそこにいるのか、元々の目的を忘れてしまうのでした。
好きな短篇を16個選べる。これは、例えばおとぎ話によく出てくる、「お前の望みを何でも三つ叶えてやる」という幸運に似ています。自分だけが特別な権利を与えられたかのような、無邪気な自由を感じます。
世の中にはなんと素晴らしい短篇がたくさんあるのでしょうか。そんな当たり前の事実を、しみじみかみ締めています。本書が完成したあとも、自分にとって大事な短篇に出会う旅、箱の中に仕舞っています。箱にはちゃんと仕切りがあるはずなのに、なぜかいくらでも収納できるようです。
目次
私の偏愛短篇箱 小川洋子
小川洋子 解説エッセイ
<奇>
件 内田百閒 「件」の気持
押絵と旅する男 江戸川乱歩 教えと機関車トーマス
こおろぎ嬢 尾崎翆 錯覚のおばさん
兎 金井美恵子 兎の目は桃色
<幻>
風煤結婚 牧野信一 自分専用の宙の一室
過酸化マンガン水の夢 谷崎潤一郎 鱧の計らい
花ある写真 川端康成 「だまされてますよ」
春は馬車に乗って 横光利一 馬車と私
<凄.>
二人の天使 森茉莉 鉱物のような作品
藪塚ヘビセンター 武田百合子 ありのままの世界
彼の父は私の父の父 島尾伸三 宇宙を前進する光
<彗>
耳 向田邦子 ラブのイボ
みのむし 三浦哲郎 みのむしは大人しい虫ではない
力道山の弟 宮本輝 愛すべき少年
雪の降るまで 田辺聖子 死の気配に満ちた恋愛
お供え 吉田知子 後戻りできない
文庫あとがき 小川洋子
小川洋子:
1962年岡山市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。2004年「博士の愛した数式」で読売文学賞と本屋大賞、同年「ブラフマンの埋葬」で泉鏡花文学賞を受賞。06年「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞受賞。07年フランス芸術文化勲章シュバリエ受賞。13年「ことり」で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。20年「小箱」で野間文芸賞を受賞。21年紫綬褒章受章。「約束された移動」「遠慮深いうたた寝」ほか著書多数。
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私と息子と博士の崇高で哀しい愛
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