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「三都」というと、JR西日本の宣伝文句、大阪・京都・神戸の最新観スポットのを思い浮かべます。イタリア・ルネサンスで言えば、ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィアの三都市めぐりとなります。さて「三都画家くらべ」は、「江戸、京、大坂。三都で生まれた絵の数々を、その風土ならではの造形感覚や趣向に注目して眺める」という趣旨の展覧会です。描くスタイルやテーマが多彩となり、三都の個性が際立ってきた江戸中・後期の作品を観ることができます。大阪は「深みとおかしみ」、江戸は「理と抑制の美」、そして京は「優雅と無限の形」とチラシにあります。出品作品は、前期が89点、後期が87点、総計152点の作品が展示されます。特に目玉というものはなく、展覧会全体として三都の画家を比べています。
正直言って江戸中期・後期の作品は、一般的に言っても、特定の画家を除いては、馴染みがあるわけではありません。昨年だったか、若冲の大きな展覧会が開催されましたが、「若冲はなぜ江戸で流行しなかったのか」という視点で、図録で金子信久(府中市美術館)が解説しています。また、安藤敏信(板橋区立美術館)も「江戸絵画の特質」と題して、図録で解説しています。上方に対する江戸絵画の特質として、安藤は「線へのこだわり」を取り上げています。上方と江戸の絵の質的違いの根本に、絵画的土壌の有無がある、としています。江戸で浮世絵版画が大流行し、上方では浮世絵版画が流行しなかったのも、絵画的土壌の有無に起因するとしています。
今回の展覧会の目玉は、強いて挙げれば「若冲」になります。戦前の昭和2年、京都での展覧会に出品され、その図録に掲載されて以降、一般の目には触れることのなかった伊藤若冲の「垣豆群虫図」が85年ぶりに登場します。解説には、「カマキリを中心にクモやバッタなどのさまざまな虫たちが織りなす世界は、まさに若冲の独擅場でしょう。同時に、ただ奇抜なだけではない不思議な静けさと余韻、深みをたたえています。心静かに、虫たちの小さな声に耳を傾けてみてください」とあります。画中に「77歳」とあるが、実際には75歳の作品です。同じ年に描かれた「菜虫譜」(佐野市立吉澤記念美術館蔵)という画巻とよく似ているという。
最後の章、「三都の特産」の「京の奇抜」の項に、若冲の「垣豆群虫図」が出てくるのですが、ほかにも狩野山雪の「寒山拾得図」が出てきます。寒山と拾得は風変わりな行動で知られ、神格化された人物ですが、日本でも奇抜な雰囲気を漂わせた画像が数多く描かれてきました。ほぼ墨だけで描かれたこの図像は奇怪さを漂わせながらも、なぜか温かさも醸し出しています。「大阪の文人画」では、岡田米山人の「松下牧童図」、すなわち牛に載って笛を吹く少年の図があります。ラスト、「江戸の洋風画」に突然、司馬江漢の「異国戦闘図」が出てきます。これがなんと「油彩画」だというから驚きです。他に「オランダ馬図」もあります。まさに「西洋画法」です。
「笑い」ということでは、なめくじの這った軌跡がが絵になるとは、驚きました。大きな口を開けた「蝦蟇図」も笑えます。英一蝶の「投扇図」、板橋区立美術館堂のものですが、鳥居に向かって扇を投げて遊ぶ巡礼姿の男たちを描いています。巡礼の旅の途中で、不謹慎にも鳥居に向かって者を投げてしまう人間の滑稽さがよく表れています。僕が今回の展覧会でベストに選んだ作品は、狩野探幽の「四季花鳥図」です。大本山永平寺が所蔵する作品で、四季それぞれの草木に鳥を組み合わせた、華やかな花と鳥の世界が広がる4幅の大作で、探幽71歳のときに描かれたものです。江戸絵画の傑作で、まさに「理と抑制の美」です。
展覧会の構成は以下の通りです。
三都に旅する
花と動物
人物画くらべ
山水くらべ
和みと笑い
三都の特産
京の奇抜
大阪の文人画
江戸の洋風画
なぜか、「花と動物」は前期に、「人物画くらべ」は後期に展示されます。
以下、画像が多いですが、おつき合いください。
三都に旅する
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花と動物
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山水くらべ
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和みと笑い
三都の特産
京の奇抜
三都の特産
大阪の文人画
三都の特産
江戸の洋風画
「三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る」展
「伊藤若冲は、江戸では流行しなかった」と言ったら、驚かれるかもしれません。今でも、東京と、かつて若冲を生んだ京都では人々の気風が違うと言われます。その土地の歴史の中で育まれ、土地に染み付いたもの、まして美しさや面白さといった「感覚」は、そう簡単に他の土地に伝わったり、受け入れられたわけではなかったのかもしれません。私たちが思い描く「江戸時代の絵画」という世界は、日本全国を見渡したうえでの歴史だと言ってもよいでしょう。しかし当時のことを想像すると、人々が見ていたのは、京ならば京の、江戸ならば江戸の、それぞれの美の世界であり、画家たちはそれぞれの町の美術史の上に生きていたのです。古代からの皇都として歴史を誇った京、江戸時代になって関東の地に出現した巨大都市江戸、そして経済の中心地として賑わった大坂を加えた三つの都市は、「三都」と呼ばれました。関東と関西の違いを挙げてあれこれ話すのは現代でも楽しいことですが、当時の人々にとっても興味の的であり、生活習慣や服装などを比較して面白く綴った読み物などが多くみられるほどです。そこで、三都で生まれた絵の数々を、その風土ならではの造形感覚や趣向に注目して眺めてみようというのが、このたびの展覧会です。およそ250年にも及ぶこの時代の全貌を比べることは叶いませんが、描くスタイルやテーマが多彩になり、三都の個性が際立ってきた江戸中・後期の作品を中心にご覧いただきます。同じテーマの作品どうしで比べたり、町の「笑い」や「特産」に注目してみたり、色々な角度からの「三都画家くらべ」を楽しみつつ、日頃改めて考えることの少ない「江戸」という土地の個性にも、じっくり向き合っていただけたらと思います。
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「三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る」
展覧会企画担当:金子信久/音ゆみ子
編集:府中市美術館
発行日:平成24年3月17日
発行:府中市美術館
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