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Channel: とんとん・にっき
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鈴木涼美の、芥川賞候補作「グレイスレス」を読んだ!

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鈴木涼美の、芥川賞候補作「グレイスレス」を読みました。

 

連続して芥川賞候補作になるということはすごいことです。

鈴木凉美の芥川賞候補作「ギフテッド」を読んだ!

 

デビュー小説『ギフテッド』に続き、芥川賞候補に選ばれた鈴木涼美の第二作。主人公は、アダルトビデオ業界で化粧師(メイク)として働く聖月(みづき)。彼女が祖母と共に暮らすのは、森の中に佇む、意匠を凝らした西洋建築の家である。まさに「聖と俗」と言える対極の世界を舞台に、「性と生」のあわいを繊細に描いた新境地。 

 

「グレイスレス」は、以下のように始まります。

ああ,嫌だわ。そう言った母の右手は白い壁にはっきりとついた痕を伝い、一度壁から離れて今度は痕の端に二、三度強く押し付けられたものの、少なくとも細い指の腹で擦られた程度では痕が薄れたり変形したりする様子はないのだった。

 

離婚時に、それまで三人で暮らしていた都心部のマンションではなく、そこから車で一時間半ほどかかる場所に建つ家を貰うことを選んだのは母の方だ。その年の三月に当時の自宅付近を通る地下鉄で起きたテロ事件が関係しているのかはよくわからないが、おそらく外壁の煉瓦タイルが気に入ったというのが主たる理由なのだと思う。その外壁と屋根に使われる玄昌石のせいで、家は実際より古びて見えるのだが、古道具の類を集める母の好みとは合致していた。

 

十年前、大学を一年足らずで辞めて、この業界で化粧師の仕事を始めた頃は、ポルノは基本的に二日間に亘って撮影されていた。・・・無料動画が増えるに従って一本のビデオにかける予算が年々切り詰められていく中、撮影を一日で終わらせることが増え、それゆえにポルノ女優の一日はとても長い。

 

父の叔母が、海外の仕事も多い建築家に新居の相談をした際。最初に語った小説のイメージがそのまま生かされているのだと聞いた。・・・当初は単純に相談に乗っていた建築家はどうやら、参照された小説の中に描かれる構図を新しい家の設計に落とし込んでみたいという思いに駆られたようだった。高校時代、母に手渡されて読んだその小説では、その建物は淫売屋であった。中央の円形の部屋にいると、周囲の五つのドアの下から快楽に疲れ切った男女のため息や喘ぎ声が聞こえてくる。・・・それぞれの部屋の薔薇色の寝室に、全く新しいタイプの娼婦がいた。

 

昔に比べれば比較的自然な化粧が流行しているここ最近であっても、性欲処理に適した化粧は多くの女優にとっては物足りなかったり野暮ったく思えたりするものだ。特にポルノ女優の顔や服装を真似る女性たちが格段に増えてからは、男の射精を促すことだけに特化した顔だと割り切っていられない事情があるらしい。

 

・・・

 

「子宮頸がん」。静かな数分後、彼女は五秒もかけずに引退の理由を言った。「引退なんて急だったから、彼氏と何かあったのかなぁと思ったけど」。私がそういうと怪訝な顔をして、しばし考えるようなそぶりを見せてから、彼女はああと声を上げてから笑った。・・・「引退作、自分で決めたわ。マンコが使えないのもあるけど、金蹴り、思いきりタマ蹴っ飛ばして引退すんの、私っぽいでしょ」。

 

「ねえ、来週の金曜、仕事空いてないよね、メイクさん指名なんてしたことないけどさ、引退作だったらさせてもらえるかな、私最後ミヅキさんにして欲しいな、ミヅキさんのメイク好き」。今まで名字でしか呼ばれていなかった私は、二回も下の名前で呼ばれて、大丈夫だよ、と言った。ほんと? と言う彼女にもう一度大丈夫だよ、と言った。

 

濡れたせいかいつもより少し濃い色の塚の階段を見上げながら、その手前を左に折れて、急な坂に差し掛かると私の暮らす家の赤い煉瓦が見える。・・・私はスーツケースを持ったまましばし立って家を眺め、自分の空腹に気づいた。門を入り、一段高くなっている大理石の玄関先にスーツケースを乗せてから、家の周囲を歩いて雨戸を開けて回った。

 

スーツケースを土間に置いたまま赤い絨毯に乗り、玄関扉の方を振り返って、二十年以上前に取り外した十字架の痕を見上げた。・・・それと同時にめったになることのない固定電話が煩く鳴った。祖母かと思えば母からの国際電話だった。聞けば父のビザの関係で来月に一度帰ってくる予定が、来週から母だけがしばらく日本で暮らすという。レンタカーで空港に迎えにいこうか、という話の延長で来週以降の予定について話すと、母は意外、という声を出してから、まあそうでしょうねと得意げに、少し癪に触ることを言った。

 

ラストは、

「あと一回行くけど、金玉を蹴り上げるビデオの撮影に」。・・・母は痛そうと言った後、少し間を置いて、何か嫌になることがあったのか、と無邪気な好奇心と無理のある母性でしつこく聞いてきた。・・・二重線だらけになった手帳の日付を思い浮かべ、曜日を思い出すと、祖母は海岸のゴミ拾いへ出掛けているのだと気づいた。ゴミ拾いとは名ばかりのその会合は、性欲と善意を両手に持った老人たちが、海岸を歩いて外で朝食をとる。「いや、また気が向いたらいつでもやるよ」。ふぅんと言っている母の電話を適当な挨拶だけで切って、私は空腹と眠気のどちらを優先するか、椅子に座ったまま考えていた。

 

僕には、よくわからない小説です。比較的裕福な、セレブな家庭の中で育ったにもかかわらず、ポルノ関係の化粧師として生きてゆく、その辺の事情が小説の中で関連性が解き明かされていないのが残念です。テーマとっして芥川賞には向いていないと、僕は思いますが、どうでしょうか?

 

 

 

 


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