太田記念美術館で「闇と光―清親・安治・柳村」を観てきました。
今から約150年前の明治9年(1876)、小林清親(1847~1915)は、西洋からもたらされた油彩画や石版画、写真などの表現を、木版画である浮世絵に取り込むことによって、これまでにはない東京の風景を描きました。真っ暗な夜の街に輝くガス灯の光や、鮮やかな赤い色に染まった夕焼けの空など、光や影のうつろいを巧みに捉えた清親の「光線画」は大いに流行し、井上安治(1864~89)や小倉柳村(生没年不明)といった絵師たちも後に続きます。光線画の流行はわずか5年ほどという短い期間で去りますが、木版画の新しい可能性を切り開くものでした。近年注目される、大正から昭和の「新版画」の先駆けとも位置付けられるべきでしょう。
本展覧会では、小林清親を中心に、これまで紹介される機会の少なかった井上安治と小倉柳村が描いた光線画、約200点(前期と後期で全点展示替え)を展示します。木版画だからこそ味わい深い、闇の色、光の色をお楽しみください。
本展の見どころ
1 清親・安治・柳村の光線画の全貌を伝える約200点が集結(前後期で全点展示替え)
2 夭折の絵師・井上安治と幻の絵師・小倉柳村にフォーカスする貴重な機会
3 同じ板木でも摺りが異なる「摺り違い」や、画面にニスを引いた「ニス引き」など、変わり種の作品を比較して展示
絵師紹介
小林清親 こばやし きよちか(1847~1915)
明治を代表する浮世絵師の一人。洋画や写真を学び、明治9年から13年にかけて、光と影を情感豊かに捉えた「光線画」を発表して人気を博す。その後は、報道雑誌に風刺画を描いたり、江戸時代の浮世絵に回帰した風景画や歴史画、戦争画を手掛けたりするなど、光線画とは異なる画風を展開した。
井上安治 いのうえ やすじ(1864~89)
小林清親の門人で、清親の光線画を忠実に受け継ぐ。その後、井上探景と画号を改め、さまざまなタッチで浮世絵を描くが、数え26歳という若さで亡くなってしまった夭折の絵師。杉浦日向子氏の漫画『YASUJI東京』で取り上げられたことでも知られる。
小倉柳村 おぐら りゅうそん(生没年不明)
明治13~14年(1880~81)、小林清親に倣って光線画を制作するが、作品はわずか9点しか確認されていない。経歴はまったく分かっていない正体不明の謎の絵師。代表作は「湯嶋之景」。男性二人が静かに月を眺めるミステリアスな雰囲気が特色。
小林清親
井上安治
小倉柳村
「闇と光―清親・安治・柳村」
展覧会図録
2022年10月30日発行
編集:太田記念美術館
発行:太田記念美術館
「太田記念美術館」ホームページ
太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (ukiyoe-ota-muse.jp)
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