リサ・タッデオの「三人の女たちの抗えない欲望」(早川書房:2021年3月25日初版発行)を読みました。書店で平積みされていたのを購入、ほどなくして金原ひとみの書評が出ましたが、三人の女性が主人公のせいか、なかなか読むのにエンジンがかからず、やっとのことで読み終わったというわけです。が、残念ながら僕は字面をなぞっただけに終わりました。が、女性ならば丹念に読めば、シンパシーも感じられるはず。
米<NYタイムズ>、英<サンデー・タイムズ>
ベストセラー
女たちの欲望と、社会との軋轢をつぶさに描くルポルタージュ
三人の女たちの抗えない欲望
高校時代に恋愛関係だった教師に裏切られたマギー、夫の望み通りに、夫婦以外を交えた性生活を送っていたスローン、夫との別居を決意したところで高校時代の恋人に再開したリナ。3人の女性たちの欲望と、抑圧からくる苦悩を丹念に取材したノンフィクション。
金原ひとみは、朝日新聞の書評欄で言う。タイトルは「剥き出しの人間知る紅葉と虚無」です。
三人のパートが小刻みに切り替わっていく中で、三人の恋愛のみならず、幼少期の出来事、家族や友人との関係、やり取り、両親の生い立ちまで、本人らに憑依したかの如く仔細に描かれている。それぞれが外的、内的な閉塞感に満ちていて、ガス室、長い潜水、気管支炎、と地獄めぐりをしながら息苦しさに悶えるような読書だったが、同時にここまで剝き出しになった人間を間近で見る機会は、生きている間ほとんどの人に与えられていないのではないだろうかと、読み終えた瞬間自分が目にしたものの稀有さを痛感した。
僕には手に負えないので、以下、いつものように「訳者あとがき」に頼ります。
タイトルが示唆するとおり、この本には三人の女が登場する。
リナ
保守的な土地柄といわれる中西部インディアナ州で、比較的恵まれた生活を送る主婦。高校時代に上級生グループから集団レイプされ、小さな町にその噂が広まって、レイプ被害そのものと周囲の視線の二つがリナの心に深い傷を残した。その後「安心できそうな」男性を結婚して十一年。キスひとつしてくれなくなった夫との別居を決意したころ、高校時代の初恋の相手と再会して、ダブル不倫関係に。他人には「そんなつまらないこと」と一蹴されそうな欲求(夫からキスされたい)を優先して別居を決めたうえ、不倫まで始めたことをうしろめたく思いつつも、いっtん走り出した気持ちを止められなくなっている。
スローン
北東部ロードアイランド州で、シェフの夫と共同でレストランを経営している。実家は裕福だが、家族らしい愛情に欠けていた。長年、夫が選んだ第三者を加えた3Pセックスを続けており、夫の希望に従ったその行為を通し、何よりもほしかった「愛されている」実感や自己肯定感をついに手に入れる一方で、同じ行為が別の誰かを不幸にしている可能性に薄々気づいていながら目をつぶっている。
マギー
やはり保守的な中西部ノースダコタ州の二十代の女性で、高校時代に既婚の男性教師から、”関係”を迫られたのち、一方的に別れを告げられる。自分の欲求や現実に起きたはずの性経験を全面的に否定されたように感じたマギーは、自分のことさえ信じられなくなり、大学に進んでからも長いあいだ鬱状態に苦しむ。五年後、相手の教師が州の最優秀教員に選ばれたことをきっかけに
――自分の世界はあの別れを境に歩みを止めてしまったのに、彼の世界は順調に進み続けていることを知り、また自分の沈黙は同じような被害者を増やすことにつながりかねないことに気づいて――未成年者の性的虐待容疑で教師を告発した。しかしこの勇気ある行動に、地域社会は「人気の教師を自分から誘ったのでは」「どうせ金目当ての訴訟だろう」と冷ややかな目を向け、マギーはそういった偏見とも戦う羽目になる。
著者紹介
リサ・タッデオ(Lisa Taddeo):
米ニュージャージー州出身の作家・ジャーナリスト。『ニューヨーク・タイムズ』『エル』『エスクァイア』『ニューヨーク・マガジン』など多数の雑誌や新聞にルポルタージュや短篇小説を寄稿、いずれも高い評価を受け、プッシュカート賞などを受賞。 Best American Political Writing、Best American Sports Writing などのアンソロジーにも作品が収録されている。長篇デビュー作となる本書ではブリティッシュ・ブック・アワードに輝いた。
訳者略歴
池田真紀子:
英米文学翻訳家。訳書にA・J・フィン『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』、E L ジェイムズ《フィフティ・シェイズ・シリーズ》(以上早川書房刊)、ジェフリー・ディーヴァー《リンカーン・ライム・シリーズ》、ミン・ジン・リー『パチンコ』、レイチェル・クシュナー『終身刑の女』など。
朝日新聞:2021年5月22日