さあ、今週も始まりました。題目は最も苦手な哲学です。ハイデガーの「存在と時間」です。理解するのは難しそうだけど、我慢して勉強しましょう。
プロデューサーAのおもわく
20世紀最大の哲学者の一人とされるマルティン・ハイデガー(1889-1976)。彼の哲学は「存在論」と呼ばれ、「存在とは何か」という哲学史上最も根源的な問題を問い続けました。そんな彼の前期の主著が「存在と時間」です。
「現象学」という新しい哲学的方法を用いて「存在の意味」に迫ろうと企図された「存在と時間」は、1927年2月に発表されるや圧倒的な評価を受け、「まるで稲妻のように閃いて、見る間に思想界の形勢を変えた」と伝えられます。この著作によりハイデガーは世界的な名声を得ました。その後、この哲学書は世界各国で翻訳・出版され、現代思想を担う数々の哲学者や思想家たちにも巨大な影響を与え続けます。では、ハイデガーの哲学はなぜそこまで人々を魅了したのでしょうか。
第一次大戦直後のヨーロッパでは、戦前まで人々を支えてきた近代思想や既存の価値観が大きく揺さぶられ多くの人々は生きるよりどころを見失っていました。巨大な歴史の流れの中では、「人間存在」など吹けば飛ぶようなちっぽけなものだという絶望感も漂っていました。そんな中、「存在とは何か」を問うための前提として、「人間存在」の在り方(実存)に新たな光をあて、「本来的な生き方とは何か」を追求したハイデガーの哲学は、「根源的な不安」にさらされた人たちに、人間の尊厳をとりもどす新しい思想として注目されたのです。
現代ドイツ思想を研究し続ける戸谷洋志さんは、既存の価値観が大きくゆらぐ中で、多くの人々が生きるよりどころを見失いつつある現代にこそ、ハイデガーを読み直す意味があるといいます。彼の哲学には「不安への向き合い方」「生きる意味の問い直し」等、現代人が直面せざるを得ない問題を考える上で、重要なヒントが数多くちりばめられているというのです。
番組では戸谷洋志さん(関西外国語大学准教授)を指南役として招き、哲学書の中でも難解で手にとりにくいとされる「存在と時間」に新しい角度から光を当てて分り易く解説。ハイデガー哲学を現代社会につなげて解釈するとともに、そこにこめられた【本来的な生き方とは何か】や【不安との向き合い方】、【世間との関わり方】などを学んでいきます。
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<各回の放送内容>
第1回「存在」とは何か?
【放送時間】
2022年4月4日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2022年4月5日(火)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2022年4月11日(月)午後1時5分~1時30分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】戸谷洋志(関西外国語大学准教授) …現代ドイツ思想の研究者。著書に「Jポップで考える哲学」「ハンス・ヨナス 未来への責任」等がある。
【朗読】野間口徹(俳優)
【語り】加藤有生子
「存在とは何か」。古代ギリシャ以来続く根源的な問題を問うためにハイデガーは「存在と時間」を執筆した。彼は「存在とは何か」を明らかにするためには、まずそうした「存在の意味」を問わずにはいられない人間に着目する必要があると考えた。世界の中に存在し、自分以外の存在者と関係をもち、自分自身の存在の仕方を自ら決めていかざるをえない存在者が人間であるという意味を込めて、人間存在を「現存在」と呼ぶことにしたハイデガーは、この「現存在」の在り方を徹底的に分析することを始める。第一回は、「存在と時間」が執筆された背景やハイデガーの人となりを紹介しながら、「存在とは何か」を問う意味とは何か、そして、「存在の意味」を問わずにはいられない人間とは何かについて深く考える。
第2回 「不安」からの逃避
【放送時間】
2022年4月11日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2022年4月12日(火)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2022年4月18日(月)午後1時5分~1時30分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】戸谷洋志(関西外国語大学准教授) …現代ドイツ思想の研究者。著書に「Jポップで考える哲学」「ハンス・ヨナス 未来への責任」等がある。
【朗読】野間口徹(俳優)
【語り】加藤有生子
ハイデガーによれば、どんな人間であっても、その人生はさまざまな可能性に開かれている。しかし、そのことは人間に対して「不安」をもたらしもする。人間は、この「不安」から逃れるために「世間」に従属しようとする。その中に安住していれば、自分自身の根拠のなさから目を背けることができるできるからだ。ハイデガーはこのような生き方を「非本来的」であると批判し、むしろその「不安」をきっかけにして「本来的な生き方」に覚醒できるのだと説く。第二回は、最重要概念ともいえる「不安」の意味を深掘りし、私たちはなぜ「不安」に陥るのか、そして、なぜ「不安」から目を背けようとするのかを明らかにする。
第3回 「本来性」を取り戻す
【放送時間】
2022年4月18日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2022年4月19日(火)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2022年4月25日(月)午後1時5分~1時30分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】戸谷洋志(関西外国語大学准教授) …現代ドイツ思想の研究者。著書に「Jポップで考える哲学」「ハンス・ヨナス 未来への責任」等がある。
【朗読】野間口徹(俳優)
【語り】加藤有生子
「世間」において人間は誰でもない誰かとして生きている。すなわち、それは他者と交換可能であることを意味する。しかし、「死」だけは交換可能ではない。私は、誰かの代わりに死ぬことはできないからだ。「死」は、それぞれがかけがえのない個人であることを思い知らせる。このように自分の死の可能性を引き受けながら生きることをハイデガーは「死への先駆」と呼び、非本来的な生き方から、本来的な生き方へ向かう大きなきっかけであると説く。その結果、人間は一回限りの人生をどう生きるのかを選び取る決意に立てるというのだ。第三回は、「死への先駆」「決意性」といった難解な概念の意味を解きほぐし、人間が自分らしさを取り戻す生き方をするには何が必要なのかを考える。
第4回 「存在と時間」を超えて
【放送時間】
2022年4月25日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2022年4月26日(火)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2022年5月2日(月)午後1時5分~1時30分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】巽孝之(慶應義塾大学名誉教授)
【指南役】戸谷洋志(関西外国語大学准教授) …現代ドイツ思想の研究者。著書に「Jポップで考える哲学」「ハンス・ヨナス 未来への責任」等がある。
【朗読】野間口徹(俳優)
【語り】加藤有生子
1933年、ハイデガーはフライブルグ大学の学長に就任。その就任演説でナチスドイツへの支持を表明する。なぜ「存在と時間」で人間の本来性を追求したハイデガーがナチスに加担してしまったのか? 彼に影響を受けながらも後に決別した政治哲学者のアーレントは「孤独な決断」を称揚したハイデガーには「公共性」という概念が欠落していたと指摘し、哲学者のバンス・ヨナスは、「何に対して責任を取るのか」という視点が欠けていたと考える。第四回は、ナチスに加担してしまったハイデガーには何が足りなかったかを考究し、次世代の哲学者たちが考え抜いた「存在と時間」のもつ限界を乗り越える方法を模索する。
サルトルとハイデガーの思想的相違ㅤㅤ
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