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ジャ・ジャンクー監督の「長江哀歌」を再び観る!(再掲)

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ジャ・ジャンクー監督の「長江哀歌」が、NHKのBSプレミアムで放映されていたので、ビデオに撮って観ました。

 

シネマ「長江哀歌」 

2022年3月17日(木) 1:00PM(1H54M) NHKBSプレミアム 

 

過去に何度も観ていて、ブログにも書いています。

ジャ・ジャンクー監督の「長江哀歌」を再び観る!

 

ここでは14年前に書いた記事ですが、以下に再掲します。

 

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もう何度観た映画だろう、ジャ・ジャンクー監督の2006年の作品、「長江哀歌」を再び観ました。監督36歳の時の作品。長江の山峡ダム建設という国家的な大事業のために水没する古都・奉節がこの作品の舞台、主人公は妻子や夫を捜しにやってきた男と女。炭坑夫サンミン(ハン・サンミン)は、16年前に別れた妻子を探しに山西省から奉節にやってきた。シェン・ホン(チャオ・タオ)は、2年間音信不通の夫を探しにやはり山西省からやってきた。山西省はジャ・ジャンクー監督の故郷です。この作品の中国語の原題は「三峡好人」、「三峡の善人」という意味だそうだ。資本主義社会では善人は生きづらいということを寓話的に描いたブレヒトの戯曲「セツアンの善人」からとられたという。また英語のタイトルは、「STILL LIFE(静物)」です。ジャ・ジャンクー監督は「時は、静物の上に深い痕跡を残すが、静物はただ黙って人生の秘密を湛えている」と言います。

 

長江の壮大な自然と対比的に描かれる風景は、解体されたコンクリートの瓦礫の山また山です。伝統や文化などと共に、過去のものはすべてが解体され、ダムの底に沈みます。人為的なダム建設のために、130万人もの人々が生まれ育った故郷を捨てて、立ち退いて行ったという。自由経済へと移行する中国のなかで、個人主義が増長し、貧富の格差がますます拡大していきます。新たな求心力として必要なのは「世界一のダム」であり、「北京オリンピック」というわけです。しかし、噴き出したのは「チベット弾圧」であり、「食品から検出された有害物質」でした。


 

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「烟(タバコ)、酒、茶、糖(アメ)」という古来より中国では欠かせない4つの嗜好品が、この作品の4つの章に該当しています「烟」、サンミンがチンピラのマークに煙草をすすめると香港の大スター・チョウ・ユンファの真似をして火をつけたりします。「酒」、義兄を訪ねてみやげの山西省の酒を差し出すが義兄は受け取りません。「茶」、シェン・ホンは夫の使っていたロッカーからお茶を見つけて飲むシーンがありますが、いかにも不味そうでした。シェン・ホンはまた、しきりにペットボトルからお茶だか、水だかを飲むシーンが数多くあります。「糖」、「ウサギ印」のあめ玉は、作中2回ほど出てきます。小道具で言えば、「携帯電話」が多用されています。サンミンがかけた携帯が、瓦礫のなかで鳴り響くシーンには驚かされます。殺されて瓦礫の下にいた友人マークを、ただ一人サンミンは長江に葬ってやります。

 

山西で炭坑夫をしていたサンミンは、実は3000元で嫁をもらい子供もできます。しかし、嫁は売買結婚を警察に届けて、故郷に帰ってしまいます。16年後、(ちょっと時間が経ちすぎてはいますが)妻と子供に会いたくて奉節まで来たというわけです。5元で行きたいところに連れていくというバイクの男。しかし訪ねた先は、今は山峡ダムの建設のために町ぐるみ水の底に沈んでいました。役所も役にたちません。サンミンは、労働者が泊まる宿「唐人閣」に居を定めて、廃墟となった建物の解体作業に従事します。ハンマーをふるう手作業で、汗が光ります。解体工事現場では一日働いて60元です。「若い娘と遊ばない?」、仕事で腕を無くした夫は部屋を出ていきます。マークとは酒を酌み交わす仲になり、携帯の番号を交換し合います。マークの携帯の着メロは「上海灘」、「絶え間なき水流よ、世間のすべてを淘汰し、滔々と河は流れる・・・」、滔々と流れる大河・長江の哀歌(エレジー)です。

 

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シェン・ホンは、山峡の工場に働きに出て2年間音信不通の夫グォ・ビンを探しに、山西省からやってきました。「夫婦なら居場所を知らないの?」、「2年、もどっていない」。電話をしても、もう電話番号は変わっています。鉄工所の工場長は、工場の事故で労働者からつるし上げをくっています。お互いが大きな組織の歯車で、被害者なのに・・・。シェン・ホンは、発掘現場で働いている夫の友人のワン・トンミンを訪ねます。「知らない土地だから、一緒に探して欲しい」と。夫は住民撤去管理部にいるという。経営者のディン女史と夫は、ただならぬ仲だと聞かされます。ひとまずトンミンの家に身を寄せます。トンミンは本場の四川料理をふるまってくれます。シェン・ホンは「彼の問題は、何も言わないことなの」と、トンミンに言います。二人はグォ・ビンが経営するダンス場へ出かけます。「夫はダンスなんかしなかったのに」と、シェン・ホンは呟きます。橋を造ったという「成金」のお客が、暗くなった橋に照明を点させ、赤い鉄橋が浮かび上がります。

 

翌日、シェン・ホンは奉節に戻ってきた夫と2年ぶりに会います。「なにかあったのか?俺も苦労している、許してくれ」と夫は言い訳をします。長江のダムをバックに、二人は抱き合い、踊り出します。「話があるの、好きな人がいるの」とシェン・ホン。「誰だ」、「気になるの?」、「いつから?」「どうでもいいことよ、彼が待っている、二人で上海へ行く、あなた、離婚しましょう」、「よく考えたか?」、「決めたのよ」。きっぱりと別れる決意を示し、新たな人生を歩み出そうとするシェ・ホン。


 

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一方、義理の兄から嫁のヤオメイが戻って来るという知らせで、サンミンは対岸の嫁に会いに行きます。16年ぶりに会う嫁。娘はもっと南のシンセンに働きに行ったという。結婚しているのかと疑うサンミンに、「今は船で手伝いしてるだけ、あの頃の私は若かった」と嫁は言います。「出産後も働かせなかったぞ、なぜなんだ?」と聞くと、嫁は話を逸らして「再婚しないの?紹介するよ」と言います。「娘に会いたいだけだ」とサンミン、「なぜ16年も経って会いに来たの?」とヤオメイ。

 

サンミンは、嫁の過酷な生活を知り、救い出したいと思い、「連れて帰りたい」と義兄に言うと「ヤオメイ次第だ」と言う。「彼女の兄に貸した3万元を返してくれ」、またしても嫁は借金のカタに取られていました。「1年待ってくれ」とサンミン。廃墟となったビルで寄り添いながら再会を約束します。遠く後ろで高層ビルが崩れ落ちます。「炭坑で働いていた。炭坑の仕事は危険だ」、サンミンは新たな人生に向かって漕ぎ出そうと、山西省へ帰っていきます。背景には、ビルとビルの間に掛け渡されたロープの上を、男が一人渡っています。


 

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夫の友人のワン・トンミンの部屋から見える、丘の上に建つオブジェが、突如ロケットのように大空へ飛び立ちます。これはなにを意味しているのか?ジャ・ジャンクー監督のお遊びか?何度観ても謎です。なにしろ映像が素晴らしい。2006年ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した作品です。時代の大きなうねりに翻弄される2組の夫婦の物語ですが、実は発展途上の巨大国家中国の現代を生々しく描いたこの作品、国家とは何か、個人とは何か、何度観ても考えさせられる映画でした。

 

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