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佐伯一麦の「アスベストス」を読んだ!

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佐伯一麦の「アスベストス」(文芸春秋:2021年12月10日第1刷発行)を読みました。

 

佐伯一麦には「石の肺 僕のアスベスト履歴書」という著書があります。僕は、「石の肺」は購入してありますが、まだ読んではいません。巻末の「13年前のあとがき」には以下のようにあります。

本書は、単行本としては今から13年前に出た、ぼくにとっては唯一のノンフィクションとなります。2005年6月にクボタショ ックが起きたのがきっかけとなって、取材とともに執筆に取りかかり、2007年に刊行されたものです。アスベストと関わりを持つこととなった半生の履歴とアスベスト禍を追った本書を、クボタショックから15年となる区切りの年に、版元をかえて再刊していただく運びとなりました。

 

ぼくは純文学を書いている作家です。そのぼくが、なぜアスベスト禍についてのルポルタージュを書くのか、けげんに思う方も大いにちがいありません。実はぼくは、1984年にデビューをして作家となる以前から、飯の種として電気工をしており、作家になった後も10年間は二足の草鞋を履いていました。その電気工をしていたときに、アスベスト禍にあい、アスベスト曝露によっておこる胸膜炎(当時は肋膜炎と言いました)をおこし、筆一本になることを余儀なくされました。(「石の肺」はじめに)

 

アスベスト禍を追ったノンフィクションとして発表した「石の肺」は、自身の体験と関係者への取材による事実の記録を心がけた。いっぽう、本書「アスベストス」は、取材での見聞から喚起されたフィクションとして読んでいただければさいわnいである。(「アスベストス」あとがき)

 

「アスベストス」は、以下の4篇から構成される。

せき

らしゃかきぐさ

あまもり

うなぎや

 

せき:

居酒屋の常連であるスーさんこと須永さんが、記者からインタビューを受けていす。「何といっても40年も昔のことだからねぇ。こんな病気になって、アスベストが原因でしかかからないって嫌からいわれて、そういえば16から24、5の頃まで電話工事をしたなあって思い出して・・・」。カラオケが始まった。良雄が、スーさんのそのせきに気がついたのは1曲目の1番と2番の乾燥に入ったところとだった。唄が終わった。若い記者が胸の方はだいじょうぶなんですか、と心配げに訊くと、「唄はねえ喉や肺じゃなくて、腹で唄うのさ」とスーさんが言った。

らしゃかきぐさ:

ロンドンに留学した漱石が訪れたという「カーライル博物館」。若い女性の案内人は、ドライフラワーのような飾り物を「チーゼル」とそう教えた。書いてもらったスペルは「teasel」、妻の電子辞書で調べると「ラシャカキグサ」とあった。日本に帰ってから、思いがけないところで再会します。日本で初めて、国を相手取ってアスベストの損害賠償を求める裁判を求める裁判を起こして大坂の泉南地域。そこでアスベストの被害を世に訴え続けていた学者の家でだった。

あまもり:

発端は雨漏りでした。6年前の夏の暴風雨時に、台所の天井近くにある排気口の付近から雨漏りが発生。様子を見ようと釘で止まっている天井材を剥がして天井裏を覗き込んでみました。気が付いたのは妻でした。「この板、アスラックスって書いてあるけど、これまさか、アスベストじゃないよね」。中古のマンション、自分たちで好きなようにリフォームして住もう、という目論見。業者に見積もりを取れば三者三様。アスベスト対策はその中の一社、手間がかかるのは分かります。

うなぎや:

うなぎやの大将こと、松谷祐二が尼崎市に生まれたのは、もはや戦後ではない、と経済白書に記された1965年。母親をエレベーター付きの家に住まわせることができて、もう一つの念願、うなぎ職人としての修行もそろそろ30年となり、厄年も越えたことから、独立して店を持つというもくろみだった。一方、茂崎皓二は、首都圏暮らしを引き上げ、故郷の仙台に住むようなった。その頃、大手機械メーカーのクボタが、尼崎市の旧神崎工場で働いていた従業員78人が、アスベストが原因のがん、中皮腫などで死亡していたと発表。茂崎は、20代から30代初めにかけて、1980年代の東京都内で一人親方の元、電気工として働いていた。ビルの改修工事の折には、狭い天井裏に潜り、そこのコンクリートの天井や鉄骨などに吹き付けられていたアスベストに電気ドリルを突き当てたりしていた。祐二は、初めて「中皮腫」と診断され、アスベストとの接点を医者に問われたが、首を傾げるしかなかった。クボタの発表があったのは、そんな折だった。関西では、2005年6月29日の夕刊に、「10年で51人死亡。アスベスト関連病でクボタが開示」が一面のトップに、社会面のトップには「住民5人も中皮腫、見舞金検討、2人は死亡」という見出しが付いたスクープ記事が。母親は、団地のベランダで洗濯物を干しているときに、丸見えのクボタを観てると、「これでもってうちの子がやられたんや」と悔しがった。

 

佐伯一麦:

1959年、宮城県仙台市に生まれ。仙台第一高校卒業。上京して雑誌記者、電気工などさまざまな職業に就きながら、1984年「木を接ぐ」で「海燕」新人文学受賞する。1990年「ショート・サーキット」で野間文芸新人賞、翌年「ア・ルース・ボーイ」で三島由紀夫賞。その後、帰郷して作家活動に専念 する。1997年「遠き山に日は落ちて」で木山捷平文学賞、2004年「鉄塔家族」で大佛次郎賞、2007年「ノルゲNorge」で野間文芸賞、2014年「還れぬ家」で毎日芸術賞、「渡良瀬」で伊藤整文学賞それぞれ文学賞を受賞。

 

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朝日新聞:2022年2月12日

 

「石の肺 僕のアスベスト履歴書」

岩波文庫

2020年10月15日第1刷発行

著者::佐伯一麦

発行所:岩波書店


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