高橋源一郎×斎藤美奈子の「この30年の小説、ぜんぶ 読んでしゃべって社会が見えた」(河出新書:2021年12月30日初版発行)を読みました。
「バブル崩壊」、「東日本大震災」、そして「コロナ禍」、長いですね。
2011年、金原ひとみの「マザ-ズ」、西村賢太の「苦役列車」から、2021年、乗代雄介の「旅する練習」、金原ひとみの「アンソーシャル ディスタンス」、石沢麻依の「貝に続く場所にて」、ときました。
本読みのプロである、タカハシさんとサイトウさん。
平成から令和までの約30年間に刊行された本を通じて、
日本社会の深層を読み解いていく、唯一無二、白熱の対談集!
「ほんとうに社会のことが知りたいなら、小説を読むべきである」(タカハシさん)
「小説にはまちがいなく時代の空気、言いかえれば社会が詰まっている」(サイトウさん)
長い歳月をかけた対談の記録だからこそ見えてくる、思いもよらない読書案内。
さあ、忖度なしの本の世界へようこそ!
2011年から令和まで、計6回おこなわれた本をめぐる対話から、日本社会が浮かび上がる。思いもよらない解釈や、意外な作品との繋がりなど、驚きと発見に満ちた、白熱の対談集!
目次
はじめに
第一章 震災で小説が読めなくなった
ブック・オブ・ザ・イヤー2011
生存にかかわるリアリズムは最強だ
『マザーズ』金原ひとみ/『苦役列車』西村賢太/『ニコニコ時給800円』海猫沢めろん
謎の「いい女」小説はちょっと前衛
『きことわ』朝吹真理子/『私のいない高校』青木淳悟/『いい女vs.いい女』木下古栗/『これはペンです』円城塔
緊急時、ヒトはクマやウマになる
『馬たちよ、それでも光は無垢で』古川日出男/『雪の練習生』多和田葉子/『神様2011』川上弘美
君は3・11を見こしていたのか
『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集』宮沢章夫/『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』陣野俊史/『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』開沼博/『災害ユートピア なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか』レベッカ・ソルニット 高月園子訳
第二章 父よ、あなたはどこに消えた!
ブック・オブ・ザ・イヤー2012
原発事故は終わっていない
『阿武隈共和国独立宣言』村雲司/『むかし原発 いま炭鉱』熊谷博子/『線量計と機関銃』片山杜秀
母と娘の確執が文学になるとき
『冥土めぐり』鹿島田真希/『東京プリズン』赤坂真理/『母の遺産 新聞小説』水村美苗
ここにいたのか、落ちこぼれ男たち
『K』三木卓/『大黒島』三輪太郎/『その日東京駅五時二十五分発』西川美和
嵐の中の、もうひとつの避難所
『燃焼のための習作』堀江敏幸/『ウエストウイング』津村記久子/『わたしがいなかった街で』柴崎友香
多色刷りの性と個性が未来を拓く
『ジェントルマン』山田詠美/『奇貨』松浦理英子
第三章 近代文学が自信をなくしてる
ブック・オブ・ザ・イヤー2013
母と娘の第二章はけっこう不気味
『爪と目』藤野可織/『abさんご』黒田夏子/『なめらかで熱くて甘苦しくて』川上弘美
巨匠にとって「晩年の様式」とは
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹/『晩年様式集 イン・レイト・スタイル』大江健三郎
マルクスも驚く「労働疎外」のいま
『工場』小山田浩子/『スタッキング可能』松田青子
作家が考える震災前と震災後
『想像ラジオ』いとうせいこう/『初夏の色』橋本治
わけがわからない「大作」の中で起きていること
『南無ロックンロール二十一部経』古川日出男/『未明の闘争』保坂和志
青春はあんまりだ
『青春と変態』会田誠/『永山則夫 封印された鑑定記録』堀川惠子/『世界泥棒』桜井晴也
第四章 そしてみんな動物になった! ?
ブック・オブ・ザ・イヤー2014
ステキな彼女に洗脳されて
『死にたくなったら電話して』李龍徳/『吾輩ハ猫ニナル』横山悠太
家こそラビリンス
『穴』小山田浩子/『春の庭』柴崎友香
21世紀の私小説は社会批判に向かう
『33年後のなんとなく、クリスタル』田中康夫/『未闘病記 膠原病、「混合性結合組織病」の』笙野頼子/『知的生き方教室』中原昌也
近代の末路を描く「核文学」
『震災後文学論 あたらしい日本文学のために』木村朗子/『東京自叙伝』奥泉光/『アトミック・ボックス』池澤夏樹/『聖地Cs』木村友祐
保存された記憶、または90歳の地図
『徘徊タクシー』坂口恭平/『ラヴ・レター』小島信夫/『夢十夜 双面神ヤヌスの谷崎・三島変化』宇能鴻一郎
第五章 文学のOSが変わった
平成の小説を振り返る(2019)
下り坂の30年
今から思うと平成を予言していた
『タイムスリップ・コンビナート』+『なにもしてない』笙野頼子/『親指Pの修業時代』+『犬身』松浦理恵子/『OUT』桐野夏生
プロレタリア文学とプレカリアート文学
『中原昌也 作業日誌2004→2007』中原昌也/『ポトスライムの舟』津村記久子
異化される「私」
『インストール』綿矢りさ/『コンビニ人間』村田沙耶香/『スタッキング可能』松田青子/『野ブタ。をプロデュース』白岩玄
地方語と翻訳語の復権
『先端で、さすわさされるわそらええわ』川上未映子/『告白』+『パンク侍、斬られて候』町田康/『イサの氾濫』木村友祐/『献灯使』多和田葉子/『ベルカ、吠えないのか?』古川日出男
相対化される昭和
『ピストルズ』阿部和重/『東京プリズン』赤坂真理/『巡礼』+『草薙の剣』橋本治/『あ・じゃ・ぱん』+『ららら科學の子』矢作俊彦/『残光』+『うるわしき日々』小島信夫
日常のなかの戦争
『バトル・ロワイアル』高見広春/『阿修羅ガール』舞城王太郎/『虐殺器官』伊藤計劃/『となり町戦争』三崎亜記/『わたしたちに許された特別な時間の終わり』岡田利規
当事者として書くこと
『バナールな現象』+『雪の階』奥泉光/『神様2011』川上弘美
第六章 コロナ禍がやってきた
令和の小説を読む(2021)
セクシュアリティをめぐって
『オーバーヒート』千葉雅也/『ポラリスが降り注ぐ夜』李琴峰
海外に渡った女性たちの選択
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』+『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』ブレイディみかこ/『道行きや』伊藤比呂美
SNSが身体化した社会で
『かか』宇佐見りん
世界に羽ばたく日本文学
『夏物語』川上未映子/『献灯使』多和田葉子/『密やかな結晶』小川洋子/『JR上野駅公園口』柳美里/『コンビニ人間』村田沙耶香/『おばちゃんたちのいるところ』松田青子
過去の感染症文学を読む
『ペスト』カミュ
コロナ文学は焦って書かなくてもいい
『ぺストの記憶』デフォー/『感染症文学論序説 文豪たちはいかに書いたか』石井正己
コロナ禍を描く日本文学最前線
『旅する練習』乗代雄介/『アンソーシャルディスタンス』金原ひとみ/『貝に続く場所にて』石沢麻依
記録を残すことの意義
『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』/『コロナ黙示録』海堂尊/『臨床の砦』夏川草介
おわりに
特別収録 ブック・オブ・ザ・イヤー2003~2010 全106作品選書一覧
高橋源一郎(たかはし・げんいちろう)
1951年生まれ。81年、『さようなら、ギャングたち』で群像新人賞長篇小説賞を受賞しデビュー。三島賞、伊藤整文学賞、谷崎潤一郎賞他各賞を受賞。近著に『一億三千万人のための『論語』教室』他多数。
斎藤美奈子(さいとう・みなこ)
1956年新潟市生まれ。文芸評論家。『妊娠小説』『文章読本さん江』『紅一点論』『モダンガール論』『戦下のレシピ』『冠婚葬祭のひみつ』『名作うしろ読み』『ニッポン沈没』など多数。
過去の関連記事:高橋源一郎関連
高橋源一郎の「ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ」を読んだ!
高橋源一郎の「性交と恋愛にまつわるいくつかの物語」を読んだ!
二度結婚し、二度離婚した。
(ブログを始める前にはもっと読んでた)
過去の関連記事:斎藤美奈子関連
他に、(ブログを始める前に読んだもの)
「趣味は読書。」(平凡社 2003年)
「文章読本さん江」(筑摩書房 2002年)
「文壇アイドル論」(岩波書店 2002年)
「モダンガール論 - 女の子には出世の道が二つある」(マガジンハウス 2000年)
「あほらし屋の鐘が鳴る」(朝日新聞社 1999年)
「読者は踊る - タレント本から聖書まで。話題の本253冊の読み方」(マガジンハウス 1998年)
「紅一点論 - アニメ・特撮・伝記のヒロイン像」(ビレッジセンター出版局 1998年)
「妊娠小説」(筑摩書房 1994年)
等々
朝日新聞:2022年1月15日