山下裕二の「商業美術の逆襲 もうひとつの日本美術史」(NHK出版新書:2021年12月10日第1刷発行)を読みました。
山下裕二にとっては、「日本美術の底力―『縄文×弥生』で解き明かす」(NHK出版新書)に続き、新書二冊目の著作です。
本格的な再評価が待たれる近代の画家とその作品を紹介するとともに、日本の商業美術の系脈を江戸時代に遡って問い直し、もうひとつの日本美術史として提起する。もっと前のめりに言うならば、権威主義的な美術界に対する商業美術家の逆襲を先導する。それが、本書の企みです。
破格の作家たちを軸に、
浮世絵からマンガまでを一望する
新・日本美術史!
浮世絵から新版画、そしてイラストレーション、マンガまで。商業美術こそが、日本美術の伝統を継承し、次代の表現を生み出す原動力となってきた。河鍋暁斎、小村雪岱、渡辺省亭、横尾忠則、つげ義春……。従来の日本美術史の枠をはみ出した破格の才能をオールカラーで紹介するとともに、彼らが近年注目を集める理由を明らかにする。
目次
はじめに
パートⅠ 商業美術の到達点
第1章 花鳥画の名手はなぜ忘れられたか
印象派の画家を驚かせた渡辺省亭
なぜ画壇から距離を置いたのか
はじめてヨーロッパに渡った日本画家
帰国後の活躍から商業美術へ
若冲への敬愛と対抗意識
工芸分野でも国宝級の功績
明治画壇の内実
晩年の省亭と、その最後
本格化しつつある再評価の動き
渡辺省亭と鏑木清方
抱一から是真、そして省亭
第2章 美人画の巨匠と知られざる名工
江戸と地続きの商業美術が清方を育んだ
一世を風靡した泉鏡花とのコンビ
国家プロジェクトで美人画を描く
柴田是真というキーマン
国芳は是真に弟子入りを願いでた
是真作品の真骨頂は「だまし」にあり
工芸は「美術」の埒外に置かれてきた
清方はなぜ「卓上芸術」を提唱したのか
第3章 江戸の美意識は如何に受け継がれたか
小村雪岱という衝撃
清方、鏡花、雪岱のトライアングル
江戸の残り香を描き続ける
厄介な画壇に出入りせず
日本美術の真髄をとらえた名作
昭和の春信、あるいは国貞
装丁・装画から、舞台美術まで
戦時色にかき消された盛名
制約が表現を研ぎ澄まさせた
パートⅡ 浮世絵から新版画まで
第4章 浮世絵というターニングポイント
はじまりは「洛中洛外図屏風」
憂き世草子から抜け出し「一枚絵」に
錦絵と鈴木晴信
写楽の登場は事件だった
職業画家を蔑んだ「尚南貶北論」
宗達も光琳も商業美術家だった
歌川派VS北斎
歌川派の美術史における意味
第5章 「芳」の絵師たちから美術史を見る
歌川国芳というトップランナー
国芳が育てた80人もの弟子
「血みどろ絵」の月岡芳年
奔放な芳年から、堅物の水野年方へ
狩野派の絵師で浮世絵師でもあった河鍋暁斎
雅と俗が交錯する時代の日本美術
第6章 維新後になぜ挿絵文化が花開いたか
浮世絵の延長線上に花開いた挿絵文化
浮世絵出身の絵師たちの活躍
明治後半の挿絵界を席巻した三巨頭
梶田半古とハイカラ女学生ブーム
清方と人気を二分した鰭崎英朋
大正ロマンの華宵、モダン浮世絵の専太郎
「画人ではなく武人」と語った伊藤彦造
第7章 大正期の新版画は何を目指していたのか
伝統の錦絵に一石を投じた「光線画」
浮世絵と近代絵画のハイブリッド
ダイアナ妃が愛した吉田博の新版画
売れっ子・樋口五葉の挑戦
パートⅢ 戦後の商業美術へ
第8章 デザイン・イラスの革命児たち
樋口五葉と杉浦非水
田中一光は「20世紀の琳派」
「週刊少年マガジン」の表紙を芸術にした横尾忠則
再評価される80年代イラストレーション
田名網敬一のすさまじいエネルギー
第9章 つげ義春の原画は、将来国宝になる
マンガ前史―北斎・暁斎の漫画、清親のポンチ絵
漫画からマンガへ
私にとって至高の#芸術家・つげ義春
平安絵巻につうじる谷岡#ヤウジの線猫
林静一による日本美術へのオマージュ
第10章 自分の「眼」で見るということ
なぜ「名前」で見ると危険なのか
昭和のキャバレー王が蒐めた絵とは
偉大なる素人・赤瀬川原平の言葉
自分ならいくらでこの絵を買うか
埋もれた作家はまだたくさんいる
日本美術の応援に終わりはない
おわりに
主要参考文献
以下、この本で取り上げられていた作品の一部
パートⅠ 商業美術の到達点
パートⅡ 浮世絵から新版画まで
パートⅢ 戦後の商業美術へ
山下裕二:
1958年、広島県生まれ。美術史家。明治学院大学文学部芸術学科教授。東京大学大学院修了。室町時代の水墨画の研究を起点に、縄文から現代まで幅広く日本美術を論じるほか、講演、展覧会プロデュースなど多方面に活躍。著書に『日本美術の底力』(NHK出版新書)、『未来の国宝・MY国宝』(小学館)、『日本美術の20世紀』(晶文社)、『岡本太郎宣言』(平凡社)、『日本美術応援団』(赤瀬川原平との共著、ちくま文庫)ほか多数。
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