井上一夫の「渡された言葉 わたしの編集手帖から」(本の泉社:2021年10月20日第1刷発行)を読みました。
井上一夫といえば、あの世紀のベストセラー「大往生」の担当編集者です。
当初、メディアが強調したのは意外性でした。「お堅い」岩波新書と「タレント」永六輔とはミスマッチであり、その話題性が功を奏した、云々。
「永さんの新書の代名詞のごとく言われる『大往生』は発売1年で190万部を超え、累計246万部におよぶという破天荒なものでしたけれど(2018年12月現在)、続く8冊もすべて10万部をクリアしていて、ときに数十万部というレベルを実現しました(全9冊の総部数は400万部超)。ここまで広く読者の支持を得たシリーズは空前です。永さんのことばはたしかに読者に届いていました」。(「伝える人、永六輔」より)
本の紹介
「わたしは出版社=岩波書店に在職すること40年、幸いにして多くの魅力的な方々と接する機会を得ました。そして、本づくりの場をともにするなかで、数多くの印象的な言葉を聞きます。……ときにさりげない示唆であったり、ふとしたつぶやきだったりしました。だからこそ、思わずハッとさせられ、自分なりに気づきがあったのです」。
本書に込めた思いは、「渡された」言葉を「渡したい」ということに尽きます。それがかつての時代の輝きや熱気を伝えることにつながり、いささかでも「温故知新」の課題に接近できるなら、とてもうれしいことです。(「まえがき」より)
大ベストセラーとなった永六輔『大往生』をはじめ、井波律子『三国志演義』、阿久悠『書き下ろし歌謡曲』、鈴木敏夫『仕事道楽』、高畑勲『漫画映画の志』、山藤章二『似顔絵』など、数々の話題作を手がけた編集者が、本づくりの場で聞き取った言葉をテーマに、交流の日々をエピソード豊かに描き出す。臨場感あふれる筆致のなかに、人と時代の熱気が浮かび上がる連作エッセイ。
目次
Ⅰ
「ここまで調べたけれどわからない」[青木和夫]
「〈友だち〉ではなく〈友人〉だった」[田中琢・佐原真]
Ⅱ
「みんなが反対すれば止めさせられる」[阿波根昌鴻]
「『大往生』はラジオ本なのだ」[永六輔]
「工夫すべきことは果てがない」[六代目嵐芳三郎]
「見えない飢餓にボールをぶつける」[阿久悠]
「裏日本独立論はありえない」[古厩忠夫]
「〈越境〉する旅人の歌を追って」[姜信子]
「どの人の声もその人にしかない響きがある」(関屋晋)
「写楽が大先輩」[山藤章二]
「打ち合わせと称する酒席を重ねて」[矢野誠一]
Ⅲ
「雑談のなかから作品は生まれる」[鈴木敏夫]
「勉強は楽しんでやるものだ」[井波律子]
「おどおどしながら、退かず」[小室等]
「だあれがいくさだなんてすもだば」[伊奈かっぺい]
Ⅳ
寧楽の逸民 ― 田中琢さんの身の処し方
わびあいの里 ― 阿波根昌鴻さんの生活と思想
『漫画映画の志』のこと ― 高畑勲さん追悼
『君が戦争を欲しないならば』― 高畑勲さんのブックレットを読む
「伝える」ことを「伝わる」かたちに ― 永六輔さんの語りをめぐって
井上一夫:
1948年、福井県に生まれ、新潟県、富山県で育つ。
1973年、岩波書店入社。日本思想大系編集部、文科系単行本編集部、日本近代思想大系編集部、新書編集部をへて、1999年、営業部に異動。2003年から同社取締役(営業担当)となり、2013年退任。著書「伝える人、永六輔」(集英社)。
過去の関連記事:
伝える人、永六輔
『大往生』の日々
2019年3月10日第1刷発行
発行所:株式会社集英社