二宮敦人の「最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―」(新潮文庫:平成31年4月1日発行、令和2年4月15日12刷)を読みました。
もちろんこの本、単行本が出たときから知ってはいました。しかし、読んでみたい半面、なんとなくキワモノ的な感じがして敬遠していました。つい先日、たまたま本屋で平積みされていたのを手に撮ったのが運の尽き、購入してしまいました。なにしろ本の帯に、「待望の文庫化」「全国書店売り上げNo.1続出!」とあったので、遅ればせながら買わされたというか、買っちゃったというわけです。驚くなかれ文庫本で12刷ですよ。コミック版まで出ているらしい。「誰一人只者ではない、東京藝大生の知られざる日常に迫る捧腹絶倒の探検記!」とあるので、読んでないうちから期待があがりますが、、果たしてどうでしょうか。
本のカバーには、以下のようにあります。
やはり彼らは、只者ではなかった。入試倍率は東大のなんと約3倍。しかし卒業後は行方不明者多発との噂も流れる東京藝術大学。楽器のせいで体が歪んで一人前という器楽科のある音楽学部、四十時間ぶっ続けで絵を描いて幸せという日本画科のある美術学部。各学部学科生たちへのインタビューから見えてくるのはカオスか、桃源郷か? 天才たちの日常に迫る、前人未到、抱腹絶倒の藝大探訪記。
たしかに、前人未到、抱腹絶倒の藝大探訪記ですね。
数多くのインタビューから成り立っているノンフィクション作品。誇張している部分も数多いが、やはり文章とその構成が上手いですね。次から次へと読ませます。そして、キーになる人が奥さんですね。見事な舵取り役、案内役です。奥さんも相当変わっていますけど…。
僕も藝大出の知人は何人もいますけど、と言ってもほとんど建築出ですけど、やはりいろんな意味で、良きにつけ悪しきにつけ、変わっている人が多かったですね。日本では建築は工学部がほとんどですが、唯一工学部でないのが藝大の建築なんですね。私大の建築は同じ学年は100人から200人もいますが、藝大はたったの15人ですよ。この本の中では、残念ながら建築はほとんど触れられていませんが・・・。
目次
はじめに
1.不思議の国に密入国
オペラとゴリラの境界線/妻の腕が筋肉質なわけ/上野動物園のペンギンを一本釣り?/全員遅刻vs.時間厳守/仕送り毎月五十万
2.才能だけでは入れない
受験で肩を壊す/三浪くらいは当たり前/“選手生命”を考えて浪人する/問題見なくていいじゃないか/全音符の書き順は?/筋肉がないと脱落/ホルンで四コマ漫画を
3.好きと嫌い
元ホストクラブ経営者/教授たちの「膠会議」/四十時間描きつづける/義理を果たしてヴァイオリンを捨てる/嫌いだからこそ、伝えられるもの
4.天才たちの頭の中
口笛世界チャンピオン/オーケストラに口笛を/現代の「田中久重」/宇宙の果てから来た漆/「かぶれは友達」
5.時間は平等に流れない
親不知も抜けない/建築科の段ボールハウス/一緒に泊まって、一緒にご飯食べて、一緒に寝て/恋愛と、作品と
6.音楽で一番大事なこと
寝ても醒めてもフル再生/指揮者は真っ裸/自主練は九時間/楽器のための「体」/目が見えなくなっても、片腕がもがれても/全員で呼吸する
7.大仏、ピアス、自由の女神
謎の“金三兄弟”/命取りになる機械しか置いていない/貴金属の相場は毎日確認/熱気で睫毛が燃えそう/離れたくても、離れられない
8.楽器の一部になる
躍る打楽器奏者/最初の一音で癖を見抜く/理想の音/楽器別人間図鑑/最終兵器「響声破笛丸」
9.人生が作品になる
仮面ヒーロー「ブラジャー・ウーマン」/ちんちんはいつか生えてくるもの?/人生と作品は血管で繋がっている/恋愛の練習/毎週のように誰かを口説く
10.先端と本質
納豆はタレつき? タレなし?/家の中に雨を降らせる/ひょうたんを出産?/アスファルトの車、ゴミ箱ポスト/いかに無駄なものを作るか
11.古典は生きている
キラキラシャミセニスト/ボカロと三味線/演奏者は考古学者/バロック音楽という電撃/末端は本当に美しくなければならない
12.「ダメ人間製造大学」?
半分くらい行方不明/芸術は教えられるものじゃない/オルガンホームパーティー/六十代の同級生/仕事をしていない時間がない
13.「藝祭」は爆発だ!
手作り神輿と絶叫する学長/立ち聞きにも長蛇の列/ミスコンは団体競技?/夜更けのサンバと「突き落とし係」
14.美と音の化学反応
同級生は自分だけ/仏像を学ぶために音楽を学ぶ/売れる曲も、売れない曲も/美術と音楽の融合
対談 東京藝術大学学長・澤和樹×二宮敦人
あとがき
二宮敦人:
1985年東京都生まれ。「ALL一橋大学体育会競技ダンス部」卒(学部は経済学部)。2009年に『!』(アルファポリス)でデビュー。フィクション、ノンフィクションの別なく、ユニークな着眼と発想、周到な取材に支えられた数々の作品を紡ぎ出し人気を博す。『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』(新潮社)、『最後の医者は桜を見上げて君を想う』 (TOブックス)など著書多数。
過去の関連記事:
佐藤直樹の「東京藝術大学で教わる西洋美術の見かた」を読んだ!