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吉川一義の「『失われた時を求めて』への招待」を読んだ!

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吉川一義の「『失われた時を求めて』への招待」(岩波新書:2021年6月18日第1刷発行)を読みました。

 

失われた時を求めて - Wikipedia

 

プルーストの「失われた時を求めて」には以前から近寄らないと決めていたのですが、完訳を達成したプルースト研究第一人者が、全体の構成、特長、勘所を分かりやすく読み解くということなので、岩波新書でもあるので、読んでみました。とはいえ、新書に書かれていることにはどれほど書いても限度があるので、「失われた時を求めて」とはこんなものだという概要が分かっただけです。これからもたぶん、「失われた時を求めて」文庫本14冊は、僕は読むことはないと思います。

 

『失われた時を求めて』への招待

岩波文庫版『失われた時を求めて』(全14冊)の完訳を達成したプルースト研究第一人者が作品の核心に迫る解説書。この不世出の大長編は、なにを、どのように語った作品なのか。全体の構成、特長、勘所を分かりやすく読み解く。魅惑の読書体験へといざない、全篇読破に挑戦する人には力強い羅針盤となるスリリングな一冊。

 

プルーストの「失われた時を求めて」は、百年前に出版されたぢ長篇で、今やフランス文学を代表する傑作とされる。そこには紅茶に浸した、マドレーヌの味覚から過去がよみがえる挿話をはじめ、多彩な比喩を駆使した自然描写が出てくる。そこまで書くのかと溜め息が出るほどに穿った心理分析も見られる。ユダヤ人や同性愛者への差別という社会問題も描かれる。社交界で交わされる会話には諧謔と皮肉があふれている。文学や絵画や音楽や演劇をめぐる深遠な芸術論にもこと欠かない。プルーストの小説は、なにを、どのように語った作品なのか、この物語の勘所はどこにあるのか。こうした核心について筆者の考えを総合的にわかりやすく提示し、「失われた時を求めて」への「招待」とすること、それが本書の狙いである。(「はしがき」より)

 

目次
はしがき
『失われた時を求めて』の構成
『失われた時を求めて』の主な登場人物と架空地名
第1章 プルーストの生涯と作品
 1 プルーストの生涯
 2 初期作品――――『楽しみと日々』、『ジャン・サントゥイユ』、ラスキン翻訳
 3 『サント=ブーヴに反論する』から『失われた時を求めて』へ
第2章 作中の「私」とプルースト――一人称小説の狙い
 1 『失われた時を求めて』の「私」はプルーストなのか
 2 主人公の「私」はなぜ影の薄い人間なのか
 3 語り手の「私」に寄りそう作者プルースト
第3章 精神を描くプルースト――回想、印象、比喩
 1 『失われた時を求めて』はすべて「私」の回想談
 2 マドレーヌ体験の意味――無意志的記憶とはなにか
 3 印象の記述になぜ比喩が多用されるのか
第4章 スワンと「私」の恋愛心理
 1 「スワンの恋」はなぜ必要なのか
 2 「私」のジルベルトとアルベルチーヌへの恋
 3 スワンと「私」に内在する分身の声
第5章 無数の自我、記憶、時間
 1 恋愛における無数の自我
 2 自我はつねに無数
 3 記憶と時間
第6章 「私」が遍歴する社交界
 1 ゲルマント公爵夫妻のサロン
 2 本作品における社交サロンの意味
 3 全篇の中心を占める祖母の病気と死
第7章 「私」とドレフュス事件および第一次大戦
 1 ドレフュス事件はいかに語られるか
 2 第一次大戦はいかに語られるか
 3 社会はなにゆえ変容するのか
第8章 「私」とユダヤ・同性愛
 1 「私」とユダヤ人
 2 「私」と「ソドムとゴモラ」
 3 ソドムとゴモラの「結合」
第9章 サドマゾヒズムから文学創造へ
 1 ソドムとゴモラにまつわるサドマゾヒスト
 2 『失われた時を求めて』に頻出するサドマゾヒスト
 3 文学に必要不可欠なサドマゾヒズム
第10章 「私」の文学創造への道
 1 登場人物たちの愛する文学・芸術
 2 三人の架空芸術家
 3 『失われた時を求めて』の照射するもの
あとがき
【地図】プルーストと『失われた時を求めて』のパリ
『失われた時を求めて』年表/プルースト略年譜
主要文献案内
図版出典一覧

 

本書で検討したようにプルーストの長編は、自然や人間や社会にかんする広範かつ斬新な認識を言いあらわし、他の追随を許さぬ表現力を持って独自の文学的成果を実現している。にもかかわらずプルーストが、結末において、書かれるべき「理想の作品」を蜃気楼のように浮かび上がらせたのは、恋愛にせよ、社交界にせよ、芸術にせよ、あらゆる夢とその幻滅を容赦なく描きだした作家が、理想はけっして実現しないことを知り抜いていたからであろう。(P233)

 

「失われた時を求めて」は、読破するのに骨の折れる大長編だから、多くの人が手軽にその内容を知りたいを思うのは理解できる。あまたの概説書ができるだけ平明にプルーストの小説を紹介しようとする所以である。ところがこの長編を書いたのは、真に独創的なものは「人を疲れさせ、真実味を欠く印象を与える」と断言し、「各自が明瞭な考えと呼んでいるのは、自分の考えと同じ程度に不明瞭な考えのことだ」と挑発する人間である。解説が平明だからといって原作迄明瞭になるわけではないのだ。(P236「あとがき」)

 


吉川一義:
1948年、大阪市生まれ。東京大学大学院博士課程満期

退学。パリ・ソルボンヌ大学博士。京都大学名誉教授。
著書─『プルースト美術館』(筑摩書房)、『プルーストの世界を読む』(岩波書店)、『プルーストと絵画』(同上)、Proust et l'art pictural(Champion、バルベック=カブール・プルースト文学サークル文学賞、日本学士院賞・恩賜賞)、『対訳 フランス語で読む「失われた時を求めて」』(白水社)、Relire, repenser Proust(Éditions du Collège de France)
共編著─Index général de la Correspondance de MarcelProust(京都大学学術出版会)、『ディコ仏和辞典』(白水社)
翻訳─バレス『グレコ──トレドの秘密』(筑摩書房)、タディエ『評伝プルースト』(筑摩書房)、プルースト『失われた時を求めて』(岩波文庫、日仏翻訳文学賞特別賞)ほか


 


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