NHK・Eテレ100分de名著「レイ・ブラッドベリ 華氏451度」!
いや~、今回は自分の不明を恥じます。これは観るつもりはまったくなかったのですが、2回、3回と観ているうちに、のめりこんでしまいました。フランソワ・トリュフォーの「華氏451」(1966年)の映画は、名前だけは知っていましたが、こんな「ディストピア」を描いた映画だとは知りませんでした。案内役の戸田山和久さんが、魅力的で、しかも素晴らしい解説です。もちろん、テキストも購入し、ハヤカワ文庫の本も購入しました。少しずつですが、読んでいます。
本が燃やされる社会
思索や記憶を奪う
反知性主義の現実(リアル)
第1回 5月31日放送
本が燃やされるディストピア
第2回 6月7日放送
本の中には何がある?
第3回 6月14日放送
自発的に隷従するひとびと
第4回 6月21日放送
「記憶」と「記録」が人間を支える
毎週月曜日/午後10時25分~10時50分
<再>水曜日/午前5時30分~5時55分、
午後0時~0時25分(Eテレ)
プロヂューサーAのおもわく
「人間にとって本とは何か?」「思考や記憶のかけがえなさとは?」「権力者の論理とは?」
「反知性主義」という思潮が猛威を振るう中、SFという手法を使って、私たちにとって「思考する力」や「記録することの大切さ」などを深く考えさせてくれる文学作品があります。レイ・ブラッドベリ「華氏451度」。名匠トリュフォー監督による映画化、オマージュ作品として映画「華氏911」が撮られるなど、今も世界中で読み継がれている作品です。全体主義的な風潮がじわじわと世を侵食する現代に通じるテーマを、この作品をから読み解きます。
主人公は本を燃やす「ファイヤマン」という仕事に従事するガイ・モンターグ。舞台の近未来では、本が有害な情報を市民にもたらすものとされ、所有が禁止。本が発見されると直ちにファイアマンが出動し全ての本を焼却、所有者も逮捕されます。代わりに人々の思考を支配しているのは、参加型のテレビスクリーンとラジオ。彼の妻も中毒患者のようにその快楽に溺れています。最初は模範的な隊員だったモンターグでしたが、自由な思考をもつ女性クラリスや本と共に焼死することを選ぶ老女らとの出会いによって少しずつ自らの仕事に疑問を持ち始めます。やがて密かに本を読み始めるモンターグが、最後に選んだ選択とは?
この作品は、本を焼却し去り、人間の思考力を奪う全体主義社会の恐怖が描かれているだけではありません。効率化の果てに人々が自発的に思考能力を放棄してしまう皮肉や、「記憶」や「記録」をないがしろにする社会がいかに貧しい社会なのかも、逆説的に教えてくれます。そこで描かれている人々の姿は、GAFAやSNSに踊らされ、思考し何かを問い続けることをないがしろにしがちな私たち現代人をも鋭く刺し貫いていると、哲学者の戸田山和久さんはいいます。
さまざまな意味を凝縮した「華氏451度」の物語を【本を読むことの深い意味】【思考することで得られる真の自由】【権力にからめとられないための叡知】など多角的な視点から読み解き、混迷する現代社会を問い直す普遍的なメッセージを引き出します。
第1回 本が燃やされるディストピア
第2回 本の中には何がある?
第3回 自発的に隷従するひとびと
焼死した老女の姿に衝撃を受けたモンターグは、発熱し仕事を休んでしまう。ところが隊長ベイティ―は自宅を訪ねてきて「考えて苦しむくらいなら本など読まない方がまし。私たちは幸福な生活を守っているのだ」とはっぱをかける。その後モンターグは、密かに本を愛し続けるフェイバー教授と会い「人々が自発的に本を読むことをやめ権力がそこにつけこんだ」という事実を知らされる。そこには、支配を自ら招いた人間たちの愚かさを鋭く告発するブラッドベリの思いがある。第三回は、登場人物たちの言葉を通して、人間が自発的に思考の自由を手放し、効率化・スピード化に身をまかせ権力に盲従していくことの怖ろしさを考える。
第4回 「記憶」と「記録」が人間を支える
テレビスクリーンを観にやってきた近所の婦人たちに、思い立って朗読を聞かせるモンターグ。感動のあまり泣き出す婦人もいる中それが違法行為だと告発される。そしてついにモンターグは密告によって自宅の本の焼却にむかうことに。追い詰められるモンターグは最後の瞬間ベイティーに火炎放射器を向けるのだった。ついに逃亡犯と化すモンターグが最後に辿り着いた場所とは? そこで描かれるのは人類にとっての最後の希望「記憶」のかけがえなさだった。第四回は、「記録すること」と「記憶すること」が人間にとっていかに大切か、そして、それをないがしろにする社会がいかに貧しいのかをあらためて深く考える。
「華氏451度」[新訳版]
2014年6月25日発行
2021年6月15日15刷
著者:レイ・ブラッドベリ
訳者:伊藤典夫
発行所:早川書房