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平野啓一郎の「決壊(上・下)」を読んだ!

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平野啓一郎の「決壊(上・下)」(新潮文庫:平成23年6月1日発行)を読みました。上巻(480ページ)はフランス旅行中に読み、下巻(504ページ)は日本へ帰ってから一週間ぐらいで読み終わりました。現在、国立西洋美術館で「平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」展が開催されており、まだブログには書いていませんが、4月17日に観に行きました。この本を読んだ直接のきっかけは、この展覧会を観に行ったことによります。


平野啓一郎については、1999年、現役京大生として芥川賞を受賞した「日蝕」を読み、続けて「一月物語」や「高瀬川」を読んだことがありました。しかし、その後はなぜか読むことがなくなり、「日蝕」「一月物語」に長篇「葬送」(第一部上・下、第二部上・下)を加えて、これらが「ロマンチック三部作」と呼ばれていたことは、ウィキペデイアを読んで、今回初めて知りました。平野啓一郎について検索してみましたが、自分のブログには書かれていないことがわかりました。当然ですが、まだブログを始めていない時期だったからです。


さて、「決壊」の表紙には、以下のようにあります。


2002年10月、京都を始めに全国で次々と犯行声明付きのバラバラ遺体が発見された。被害者は山口県宇部市で平凡な家庭を営む会社員沢野良介。事件当夜、良介はエリート公務員である兄・崇と大阪で会っていたはずだったが──。〈悪魔〉とは誰か?〈離脱者〉とは何か? 止まらぬ殺人の連鎖。ついに容疑者は逮捕されるが、取り調べの最中、事件は予想外の展開を迎える。明かされる真相。東京を襲ったテロの嵐!“決して赦されない罪”を通じて現代人の孤独な生を見つめる感動の大作。その衝撃的結末は!?


平野啓一郎が「日蝕」でデビューし、「決壊」(発売日:2008年6月26日 )は10年目に書かれた、今から6年前の作品です。正直言って「決壊」の読後感は、あまりいいものではありませんでした。逆に、なんでこれほどまでに嫌悪すべき事件ばかりを取り上げているのか、非常に不快な感じだけが残りました。新聞やテレビなどメディアで取り上げられているものばかりです。どのような意味があるのか、よくわからなかったこの作品ですが、著者のインタビューなどで、平野が作品の意図を語っていることに助けられて、なんとか理解するようになりました。


時代設定は2002年、どういう時代だったのか?2001年には「9・11」が起きて、自分たちが理解できないような事件が数々出現します。1997年の神戸連続児童殺傷事件(犯人:酒鬼薔薇聖斗・逮捕時14歳)や2000年の西鉄バスジャック事件(逮捕時17歳)を始めとする一連の少年犯罪や、2008年3月の土浦連続殺傷事件、そしてそれを参考にしたという2008年6月の秋葉原の通り魔事件、等々を知っています。


また、2002、3年頃からブログができて、一般の人でも容易に表現者になり得る時代になります。「決壊」の良介も密かに「すぅの日記」という自身のブログを持ち、良介の妻佳枝もそのブログを見ていて、コメントした人を兄の崇ではないかと誤解したりもします。14歳の北崎友哉は「孤独な殺人者の夢想」というブログを書いたりもしていました。そのブログに書き込んだ篠原勇治とオフラインで接触を持ち、ついには殺人を犯すまでになります。しかし他人とのコミュニケーションはますます難しくなります。


平野は、今の時代の問題について、次のように言います。


今の日本には非常に複雑な問題が起きています。特に僕の世代は経済的な格差が強調され、一方でワーキングプアという深刻な状況に陥っている人もいれば、他方では大きな組織で、それはそれでいろんな矛盾を抱えながら必死に働いていても、悪しき「勝ち組」のように呼ばれてしまっている人たちもいる。どちらの立場に対しても冷淡な社会に対して、信頼感をもてずに、「自分とは何だろう」という事を手探りで考え続けて、三十代を過ごしている。


決壊」というのは、ダムとか堤防とかそうですけど、ギリギリまでがんばってるものが、とうとう限界を超えて一気に壊れてしまう現象ですよね。そういう危うさというのは、日々の生活を通じてみんな感じてるんじゃないかと思います。・・・どんなに幸せそうに見えても、それぞれの人間がギリギリのところで自分を維持している。そして、人間の耐性は限界があるというのが、僕の考えです。・・・乱暴なことをすれば、当然のように人間は壊れるし、コミュニケーションは「決壊」する。それを改めて知ってもらいたい。


そもそも自分が小説というものに魅了されてきた根本に立ち返って、今こそ社会に訴えたいテーマで、小説に関心のない人が手に取ったとしても、読者を引きずり込んで問題を共有出来るような作品を、文学というものの強い力を信じて書きたいと思ったんです。・・・そうした同世代の人に向けて、そしてその世代のことが「よく分からない」という人に向けて、自分の言葉を届けたい気持ちがありました。・・・現代という困難な時代に生きているすべての人に、僕は、小説の醍醐味を十分に味わってもらい、その感情の一番深いところまで、作品の中に生きている人たちの言葉を届かせたいと願いながら、この作品を書きました。


平野啓一郎:
1975(昭和50)年、愛知県生れ。京都大学法学部卒。1999(平成11)年、大学在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により芥川賞を受賞。著書に『日蝕・一月物語』、『文明の憂鬱』、『葬送』(第一部・第二部)、『高瀬川』、『滴り落ちる時計たちの波紋』『あなたが、いなかった、あなた』、『決壊』(上・下)、『ドーン』、『かたちだけの愛』などがある。


「著者インタビュー」




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