河添房江の「唐物の文化史―舶来品からみた日本」(岩波新書:2014年3月20日第1刷発行)を読みました。
「唐物(からもの)」とは本来は中国からの舶来品、もしくは中国を経由した舶来品をさす言葉であったが、それが転じて、広く異国からの舶来品全般を総称するものとなった。「唐物の文化史―舶来品からみた日本」は、舶来品すなわち唐物が、古代から近世までどのように日本文化史に息づいているのか、美術品や歴史史料や文学作品なども取り上げて明らかにしています。
唐物交易の時代的変遷とその実体からみた異国との交流史を縦軸とし、それにとどまらずに、それぞれの時代の権力者たちの権威と富の象徴としての唐物のあり方にスポットを当てています。聖武天皇や嵯峨天皇にはじまり、信長、秀吉、家康、吉宗まで、キーパーソンとして取り上げられています。唐物というモノに注目することは、唐物にかかわるヒトの政治的権力と文化的権威の関係をあぶり出すことにつながると、川添は言います。
面白かったのは、唐物の日本的変容です。舶来の唐物であっても、異国での本来の用途とは違った使い方が日本でされて、もてはやされた例が紹介されています。室町時代の唐物茶入、中国では香油入れに過ぎなかった小さな壺が、室町時代に高価な茶道具となり、「つくも茄子」「初花」など日本的な銘をつけてブランド力を増し、茶道の権威となったこと。
あるいは、本国で価値のないものに価値を見出した例、曜変天目は南宋時代に製作された茶碗で、黒秞茶碗の内側に大小の斑文があり、その周囲に瑠璃色の虹彩があらわれ、万点の星のように神秘的な美しさをたたえています。曜変天目は世界をみわたしても日本に3点しかなく、すべてが国宝になっています。ところが生産地の中国ではまったく残っていないどころか、忌み嫌われたようです。
本の表紙には、以下のようにあります。
日本人はなぜこれほど、舶来品が好きなのか? 正倉院の宝物、艶やかな織物や毛皮、香料、書、薬、茶、珍獣・・・。この国の文化は古来、異国からの舶来品、すなわち「唐物」を受け入れ吸収することで発展してきた。各時代のキーパーソンとの関係を軸に、唐物というモノを通じて日本文化の変遷を追う、野心的な試み。図版も多数収録。
目次
第1章 「唐物」のはじまり
―正倉院と聖武天皇―
第2章 百花繚乱、貴族があこがれた「異国」
―「国風文化」の実像―
第3章 王朝文学が描く唐物趣味
―「枕草子」「源氏物語」の世界から―
第4章 武士の時代の唐物
―福原・平泉・鎌倉―
第5章 茶の湯と天下人
―中世唐物趣味の変遷―
第6章 庶民が夢みる舶来品へ
―南蛮物・阿蘭陀物への広がり―
終章 「舶来品」からみた日本文化
河添房江:略歴
1953年生まれ。1985年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。現在―東京学芸大学教授、一橋大学大学院連携教授、博士(文学)。専攻―平安文学、平安文化。著書―「性と文化の源氏物語」(筑摩書房)、「源氏物語時空論」(東京大学出版会)、「光源氏が愛した王朝ブランド品」(角川選書)、「古代文学の時空」(編著、翰林書房)など。