長嶋有の初期の作品、「夕子ちゃんの近道」は、第1回大江健三郎賞を受賞した作品です。その大江賞が今回の第8回で終了しました。大江は「8年間の賞選考から」と題して、その辺の事情を書いています。大江賞を始めたいきさつは、若い作家たちがどのように作品を作り出しているか、それを広く読んでみたいという思いからだったという。賞金もない賞でしたが、受賞者と公開の対談も行いました。第1回から大量の本の中からどう選ぶか、追い詰められた気持だったという。そのなかで大江は、長嶋有が新しくかつよく考えられた作者であることに気づきます。そして長嶋が対話の達人で、以後の公開対談の基本的な態度を作ってくれた、と語っていました。
その長嶋有のデビュー作「サイドカーに犬」が、映画「サイドカーに犬」の原作です。原作者・長嶋有は1972年生まれ。小説「サイドカーに犬」でデビュー、文学界」2002年6月号に掲載され、第92回文学界新人賞を受賞し、2002年に「猛スピードで母は」で第126回芥川賞を受賞。この2編をあわせた「猛スピードで母は」(文藝春秋刊)は、2002年1月30日第1刷発行です。
根岸吉太郎監督の「サイドカーに犬」を、5月4日夜8時からBS日テレで放映していたので、過去に観ていた映画でしたが、再度観てみました。そのあたりは過去にこのブログに詳細に書いています。
映画のキャッチは、「正確、豪快、大ざっぱ、大胆、でも時々涙」、そして「あの夏、私の隣にはヨーコさんがいた」でした。30歳になった女性、薫(ミムラ)が小学4年の夏、1980年代を振り返って、次第にヨーコさんを好きになっていく話。タイトルの「サイドカーに犬」は、薫たちが海辺へドライブに行って車がエンストしたときに、その横をサイドカーが走り抜け、そこに姿勢正しい犬が乗っていたことによります。颯爽とドロップハンドルの自転車を乗りこなすヨーコさんがカッコいい。帰ってきた薫の母親に、ヨーコさんが頭突きを食らわす場面は驚かされます。
ラスト、海辺で薫に「嫌いなことを好きになるより、好きなものを嫌いになるほうがずっと難しいね」と、ヨーコさんがつぶやいたりもします。脇役もそうそうたるもの、トミーズ・雅や椎名桔平、寺田農などひと癖のある役者ばかり、そしてオーバーな演技ですが樹木希林もいました。ヨーコさん役の竹内結子ばかり取り上げられていますが、もちろんその演技は見事なものでこの作品で開花したと言えますが、考えてみれば共演者の古田新太もこの作品で存在感が急上昇したということも言えます。
以下、とりあえず「シネマトゥデイ」より引用しておきます。
チェック:芥川賞作家、長嶋有のデビュー作を映画化した、心温まるヒューマンドラマ。『雪に願うこと』の根岸吉太郎監督が1980年代の夏を舞台に、内気な少女と破天荒な女性の心の交流を優しくつづる。2年ぶりの映画出演となる竹内結子がヒロインを好演し、さばさばした勝ち気な女性という役でこれまでにない魅力を発揮。子役の『ハリヨの夏』の松本花奈と息の合った芝居をみせる。等身大の登場人物たちの悩みや苦しみが共感を呼ぶ。
ストーリー:不動産会社勤務の薫(ミムラ)は、ある日、有給をとって釣堀に出かける。彼女は少女にエサをつけてあげながら、20年前の刺激的な夏休みを思い出していた。母の家出後、ヨーコ(竹内結子)という若く美しい女性が夕飯を作りに現れる。型破りだが温かい心を持つ彼女に、小4の薫(松本花奈)はすっかり魅了されるのだった。
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