Bunkamuraザ・ミュージアムで「シャヴァンヌ展」を観てきました。 観に行ったのは1月2日、東京国立博物館での「博物館で初もうで」へも観に行く予定だったのですが、まずはこちらからということで、午前10時にはBunkamuraへ行き会場に入りました。あまりにも観客が少ないので、ちょっと拍子抜けしました。シャヴァンヌはあまり知られていないようで、僕自身もほとんど知りませんでしたので、先入観なしに観ることができました。
「艶がない」、「スタッコ風」、「精神性」、「理想郷」、「淡い色調」、「陰影が少ない」、「寓意」、「対になる作品」、「習作が多い」、などと、作品リストに書き付けていました。観て行くごとに、少しずつ分かってきました。シャヴァンヌは壁画作家なのだと。出ている作品のほとんどは、壁画を縮小、複製したものだということに。
1861年にアミアン美術館の壁画を手がけたシャヴァンヌは、次々と注文をこなし、19世紀最大の壁画家と称されたという。第二帝政期における市街地の大改造や、普仏戦争とパリ・コミューンを経た復興整備によって、この時代のパリは、公共建築のための大規模な装飾壁画を求めていた。卓越した画才に恵まれたシャヴァンヌは、そうした時流に乗り、物語や神話を格調高く描いて評価された。しかし画家は、壁画制作に励む一方、「貧しき漁夫」のような革新的な造形性を備えた作品もサロンに出品し続けた.。(「オルセー美術館展2010・ポスト印象派」図録より)
スケッチ風の「女の頭部(ベルト・モリゾの肖像か)」を観たとき、あまりにもモリゾに似ているので驚きました。三菱一号館美術館で観た「マネとモダン・パリ展」でマネの描いたモリゾの作品を4、5点観ましたが、たった1点でしたが、それとはまた違った雰囲気を持ったスケッチでした。このスケッチで、シャヴァンヌの属した時代のおおよそが分かりました。
第4章「日本への影響」には、黒田清輝の「昔語り下絵」や、藤島武二の「サント・ジュヌヴィエーヴ(部分)」の模写がありました。また、小林萬吾によるシャヴァンヌの「貧しき漁夫」の模写がありました。そう言えば「貧しき漁夫」は、「オルセー美術館展2010・ポスト印象派」で観たことを思い出しました。「内面への眼差し」ということで「象徴主義とナビ派」に括られていました。この作品は、ゴーギャン、スーラ、ドニ、ピカソらに大きな影響を与えたとありました。そしてまた、西洋美術館にも縦長の構図でしたが「貧しき漁夫」があることも思い出しました。
川村錠一郎の「世紀末美術の楽しみ方」(とんぼの本:1998年11月20日発行)では、クレラー=ミュラー美術館の「砂漠のマグダラのマリア」を取り上げて、「生のはかなさ、死、死の向こうに続く永遠性と神の栄光、といったキリスト教的な主題以上の象徴性を感じさせる」としています。
小林萬吾がどういう人かは知りません。ウィキペディアによると、小林萬吾(1870-1947)は1895年黒田清輝に入門、1898年東京美術学校西洋画科選科卒、とあります。黒田清輝はラファエル・コランに師事していたことはよく知られていますが、この展覧会では黒田がシャヴァンヌに会いに行った、とありました。図録を購入していないので、詳しいことは分かりませんが・・・。
今回の展覧会、シャヴァンヌの作品を所蔵する美術館があったことに驚きました。島根県立美術館の「聖ジュヌヴィエーヴの幼少期」、岐阜県美術館の「慈愛(習作)」、そして大原美術館の「漁夫」「幻想」「愛国(習作)」でした。
「大原美術館で学ぶ美術入門」(JTBパブリッシング:2006年9月1日初版発行)では、上の3点を取り上げて以下のように述べています。「漁夫」は筋骨隆々とした裸の男。陰影が巧みに表され、色彩もおよそ見えるがまま。まさに現実的な男の裸がそこにあるのに対して、「幻想」は平べったく、ふわふわした人形のようです。また「愛国」は画面全体が輝くよう。同じ画家の作品ながらこれほど描き方が変化するところに、当時の絵画革新の激しさを見ることができるでしょう、と。
続けて、シャヴァンヌが主として手がけたのは、教会や美術館などの建築に附随した壁画でした。今でもフランスの各地で彼の壁画を目にすることができ、その高い評価は未だに衰えていません。しかし日本では現在では印象派の画家たちに比べ、知名度が高いとはいえません。その要因は何といっても主要作品が壁画であるため、実物を観る機会が少ないからでしょうと、解説しています。
展覧会の構成は、以下の通りです。
第1章 最初の壁画装飾と初期作品 1850年代
第2章 公共建築の壁画装飾へ アミアン・ピカルディ美術館 1860年代
第3章 アルカディアの創造 リヨン美術館の壁画装飾へ 1870-80年代
第4章 アルカディアの広がり パリ市庁舎の装飾と日本への影響 1890年代
第1章 最初の壁画装飾と初期作品 1850年代
第2章 公共建築の壁画装飾へ アミアン・ピカルディ美術館 1860年代
第3章 アルカディアの創造 リヨン美術館の壁画装飾へ 1870-80年代
第4章 アルカディアの広がり パリ市庁舎の装飾と日本への影響 1890年代
Bunkamura25周年記念「シャヴァンヌ展」
水辺のアルカディア ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界
もとはギリシャの一地方の名称であるアルカディアは、いつしか牧人が穏やかな自然の中で羊の群を追う理想郷の代名詞として使われるようになっていきました。それは生田の文明を育んだ地中海世界のどこかに存在するやもしれぬ、誰も見たことのない桃源郷を意味します。唯一神々だけが、そこに舞い降りることができ、その豊かさを享受できるのです。そんなシーンを、まるで現実の、あたかも遠景で展開しているように描きだした画家がピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(1824-1898)です。19世紀フランスを代表する壁画家として知られるシャヴァンヌは、古典主義的な様式でフランスの主要建造物の記念碑的な壁画装飾を次々と手がけ、並行してそれらの縮小版も制作しました。また壁画以外の絵画においても才能を発揮し、数々の名作を残しています。イタリアのフレスコ画を思わせる落ち着いた色調で描かれたそれらの作品は、格調高い静謐な雰囲気を湛えるとともに、その含意に満ちた奥深い世界は、象徴主義の先駆的作例と言われています。古典的様式を維持しながら築き上げられた斬新な芸術。スーラ、マティス、ピカソといった新しい世代の画家にも大きな影響を与えただけでなく、日本近代洋画の展開にも深く寄与した巨匠の、本展は日本における待望の初個展となります。
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