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佐藤泰志の「移動動物園」を読んだ!

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佐藤泰志の「移動動物園」(小学館文庫:2011年4月11日初版第1刷発行)を読みました。本のカバーには、この本の内容について以下のようにあります。


『海炭市叙景』で奇跡的な復活を果たした悲運の作家、佐藤泰志のデビュー作が文庫化。山羊、栗鼠、兎、アヒル、モルモット…。バスに動物たちを乗せ、幼稚園を巡回する「移動動物園」。スタッフは中年の園長、二十歳の達夫、達夫の三つ上の道子。「恋ヶ窪」の暑い夏の中で、達夫は動物たちに囲まれて働き、乾き、欲望する。青春の熱さと虚無感をみずみずしく描く短篇。他に、マンション管理人の青年と、そこにするエジプト人家族の交流を描く「空の青み」、機械梱包工場に働く青年の労働と恋愛を描写した「水晶の腕」を収録。作者が最も得意とした「青春労働小説」集。


「移動動物園」は、1991年2月に新潮社から単行本として発行された作品が、文庫として刊行されたものです。まずは「海炭市叙景」が映画化され、その後押しもあって小学館文庫に入り、「移動動物園」も小学館文庫入りしました。彼の著作6冊のうち、生前に出たのはたったの4冊。「海炭市叙景」も「移動動物園」も佐藤の死後のことだという。「移動動物園」は佐藤の4作目の著作で、「移動動物園」「空の青み」「水晶の腕」の短編3作よりなります。


表題作「移動動物園」と、他の2作は時間的なズレがあります。「移動動物園」は新潮1977年6月特大号に掲載されました。一方、「空の青み」は新潮1982年10月号、「水晶の腕」は新潮1983年6月号に掲載されています。つまり表題作と他の2作は、ほぼ5年の間があります。内容紹介に“作者が最も得意とした「青春労働小説」集”とあるとおり、3作とも主人公の青年が汗水垂らして働く姿を描いています。


しかし、やはり初期の作品である「移動動物園」は、登場人物も少なく、飼育係の主人公と同じ飼育係の道子、そして中年の園長がいて、迪子と園長は肉体関係があります。そして青木という動物買い取りの男があらわれて、それで登場人物はすべてです。主人公の行動範囲も動物園の関係のみに終始しています。しかし、解説の岡崎武志によると、狭く囲まれた閉鎖的な世界には、「奇妙な仕事」や「飼育」など、初期の大江健三郎の強い影響が感じられるという。


一方、「空の青み」は外国人が住むマンションの管理人が主人公です。エジプト大使館勤務のアフィフィなど他者を見つめる主人公に余裕が感じられます。岡崎は佐藤泰志と村上春樹について、解説で比較していますが、主人公が詰まった便器に手を突っ込むシーンは、村上には絶対書けなかった、という。また「水晶の腕」は梱包会社の仕事で、主人公は輸出向けの制御装置などを梱包するための木材を切る職人的な仕事に就いています。職場の同僚たちのあだ名など、他者を巧妙に描き分けています。身体を動かす肉体労働の中から、登場人物たちの個性や実在が浮かび上がってきます。


佐藤泰志:
小説家。1949年北海道函館市生。國學院大學哲学科卒。81年「きみの鳥はうたえる」が第86回芥川賞候補作となる。以降、88回、89回、90回、93回の芥川賞候補作に選ばれる。90年10月10日自殺。享年41。「きみの鳥はうたえる」「そこのみにて光輝く」「黄金の服」「移動動物園」「大きなハードルと小さなハードル」「海炭市叙景」。


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