藤森輝信×山口晃「日本建築集中講義」反省会に行ってきました。予想していた通り、藤森輝信の独壇場で、山口晃の出番は、藤森からふられたことにちょっと答えるだけで、ほとんどありませんでした。ということで、メモしてきたものを、以下に簡単にまとめてみました。
刊行記念トークイベント
藤森輝信×山口晃
「日本建築集中講義」反省会
日時:2013年7月30日(火)
19:00開演(18:30開場)
会場:紀伊国屋サザンシアター
(紀伊國屋書店新宿南店7F)
料金:1000円(税込・全席指定)
共催:淡交社 紀伊國屋書店
藤森輝信×山口晃「日本建築集中講義」反省会
藤森:いちばん面白かったのは、名建築で案内している方が、けっこうキャラが立っていた。
山口:自虐的なキャラも。例えば角屋の中川清生さん。
藤森:角屋は京都の遊廓の中にありますが、遊女がいたわけではないと、しきりに強調していました。角屋は食事をするところで、「揚屋(あげや)」という。自分ちに遊女がいたわけではないと、中川さんはいう。角屋に遊女がいたと書いた人を訴えた。裁判になり、最高裁までいって負けた。中川さんは独特の使命感を持った方です。
山口:藤森さんは、中川さんは小さい頃虐められたんじゃないかと言ったが、すごく上品な人でした。
藤森:解説を聞くのが嫌で、学校を思い出してた。山口さんは、よく聞いていました。
山口:先生が聞かない文、自分はちゃんと聞きました。
藤森:山口さんは美術に詳しい人だ。絵描きなのに詳しい。
山口:私は知った風に言っているだけです。知っていることだけに答えます。あまりウンチクを言っているようでは負けです。開始15分、建築の話は一切なし(笑)。期待していたのは「聴竹居」、数寄屋を想像していたがアール・デコで、キッチリしていました。
藤森:期待はずれだったの?あれは数寄屋を幾何学的にしたもの。本人は大金持ちで、文人的な生活をしていた。極めて文化性の高い生活をしていた。食事は吉兆から取り寄せた。タウトが感動していました。古い友達の松隈章が管理しています。行くと細かく案内してくれます。この建物、本当に隅々までデザインしています。松隈の解説は、聞くたびに息苦しくなる。先日、松隈から「天皇ご夫妻が来ることになった」と、メールがありました。ご夫妻が「美の壺」を見て、「あれは行きたい」と言ったそうです。30分いたそうですが、松隈があの調子で説明したならば、宮内庁の人も驚いたでしょう。あんなに建築を熱心に説明する人はいない。
山口:ネジ山が縦に揃うようになっているとか。
藤森:名建築家はある部分、そういうところがある。丹下さんは、コンペの時、室名を書くと、それを直す。所員はなぜ直すのか分からない。丹下さんは部屋を歩くときに邪魔になる、と。山口さん、よかったのは?
山口:やはり待庵。
藤森:「なごみ」の力を思い知らされた。僕は不安があった。一間四方、隅に炉が切ってある。一間四方はダ・ヴィンチの人体。利休はルネサンスの人と重なる。待庵で寝てみた。私の仮説は確かめられた。
山口:躙り口を閉めてみた。茶室の中を感じてみた。表面のざらつきが消えて、影が消えた。
藤森:建築家たちは、しばらくいると広く見える、という説明をする。本願寺は、照明は昔のぼんぼりだった。山口さんが、えらくいい、いいと言った。
山口:光の入射角が関係している。下からの照明だと「箔」が明るくなる。奥行きがすごく出ます。荷物を置いてくださいと言われたなんでもない部屋、何でもなくない部屋で、金粉と竹の描き方。竹が前へ出たりで、約束事の遠近法です。
藤森:二条城へ行ったら、ひどい扱いを受けた。
山口:ワッペンをもらって写真をバチバチ撮っていたら、「ちょっと、すみません」と係の人が言ってきた。
藤森:本願寺へ行ったら、僕の本や山口さんのことを知っていて、そうとう自由度が効いた。お坊さんたちは説明が上手でした。
山口:ギシギシと床が鳴ってなんと言うか、ウグイス張り、ここは腐っているだけ(笑)。こちらが言う前から「飛雲閣は覗かれますか?」と言ってきた。
藤森:金箔と山口さん、と言えば、横浜の三渓園へ行ったら、「この金箔がすごい!」と言った。ガイドの方が素晴らしい。
山口:しばらく見ていると、タイミングよく説明してくれる。
藤森:山口さんが見ていると、「それは複製です」と(笑)。聞いたら、一枚100万円もする、すごい値段だった。
山口:複製で印刷されても、箔まで刷ってしまうとまずい。墨と金は別々にする。
藤森:岩崎邸は私はあまり・・・。松本城は子どもの頃から見ているので、もういいわ、と。その点、松隈は素晴らしい。何回見ても「毎回発見がある」と。岩崎邸の和室の床の間、正面に富士山、その下に船・・・。
山口:掛け軸の擦れた跡。
藤森:僕は明治以降の建築の専門家ですが、最近、ちゃんとした日本建築を見てみたいと思い始めた。岩崎邸の和室は、三間×三間、「九間(ここのま)」です。この形式は室町時代に成立したもので、歌の会とか、お茶とかに使った。日本間は、「九間」と「四畳半」しかない。「九間」を四つ割りにすると「四畳半」、「四畳半」は小さい方の基準で、足利将軍の部屋も四畳半でした。岩崎邸の和室は、無駄がなく、モダンな感じです。明らかに江戸時代のものではない。コンドルについて。ヨーロッパを溯っていく、エジプトはやらずにギリシャへ行く。東洋へ行ってイスラムと出会う。そういう時代の人。初めて日本は来ます。リバイバルのネタがなくなっていく、そのような時代の人です。イギリスの様式はエリザベスとジャコビアン、その後本格的なルネサンスが入ってくる。そういう時代の人だから、様式的に五月蠅い。ボアンベリは英語はフランス訛り、日本を馬鹿にしていた。コンドルは正しい英語で、日本を愛していた。自分の家で、素人歌舞伎をやっていた。奥さんは、日本舞踊の出稽古に来ていた人。私は、コンドルのことは好きだったが、岩崎邸はどうも・・・。しかし岩崎邸は実物でたどれる最古の建築です。
司会:この本を一言で言えば?
藤森:一言で言うと「名著」。
山口:「名画入り名著」→「おちゃめ画」。
藤森:山口さんの行動は細かいところを見ている。世間的には言葉尻をとらえる、と言う。
山口:骨子は藤森さん、やることがないので、道中記も含めて、言葉尻をとらえた。
藤森:東大出版会の本に山口さんが書いている「すずしろ日記」は大人気です。
山口:三仏寺、私ら2人だけが入山チェックではねられ、草鞋に履き替えた。藤森さんは通過してすぐにスニーカーに履き替えた。
藤森:昔は知り合いがいたので、上まで昇った。当日、山伏の大会があった。日常的には、山伏はいないですけど・・・。
会場からの質問:今回の建築を選んだ判断基準は?
藤森:茶室は「なごみ」なので取り上げた。普通は出てこない「日吉神社」、あんなに環境的な建築、夢のようなところだった。
山口:なんとなく通史になるように選んだ。
藤森:「閑谷(しずたに)学校」、岡山藩主の学校。石垣が廻っていて、孔子廟があって、不思議な感じの建築でした。論語を読んだという「床」が素晴らしい。案内の人が気合いが入っていた。が、案内は要りませんと断った。「桃源郷」のような雰囲気が素晴らしかった。
会場からの質問:今回廻られて素晴らしかった絵は?
山口:角屋の内装がよかった。応挙もいたし。日本建築のいろんな写しが見られて、ミニテーマパークのようで、面白かった。
会場からの質問:「フジモリ建築」についての感想を?
山口:先生は畳と正二が嫌いで、プリミティヴな素材を使われている方です。子どもが砂場で、手でこねて作ったように見える。タンポポハウス、初めて来た感じがなく、懐かしくて、無理のない気分のいい建築でした。タンポポが熱に弱くて頓挫したところが誤算。なべて、こうなったらしょうがないという考え。高過庵は揺れました。夢のなかで感じる揺れのようでした。三仏寺、若者たちが大騒ぎで鐘を鳴らしていた。藤森さんは、あの音が静まるまでここにいましょう、と言った。一番良い状態で見たいのだと思った。食べ物については何も言わない。私ももっと大らかにならなければいけないと、藤森さんを見て思いました。
「日本建築集中講義」
平成25年8月6日初版発行
著者:藤森輝信 山口晃
発行所:株式会社淡交社
過去の関連記事:
藤森輝信×山口晃「日本建築集中講義」を読んだ!