TOTOギャラリー・間で「中村好文展 小屋のおいでよ!」を観てきました。
3階の展示室を入るとすぐに目につくのが記念撮影用の「顔出しパネル」です。そうです、鴨長明です。「元祖・小屋暮らし」といえば、方丈記を書いた鴨長明。「肩の力を抜き、リラックスした気分で展示を愉しんでくださいね・・・」というメッセージを込めた趣向だと中村はいう。
今年の1月半ばに京都国立博物館で「国宝十二天像と密教法会の世界」を観たときに、同時開催として「成立800年記念 方丈記」が開催されていました。鎌倉時代を代表する随筆として知られる「方丈記」は鴨長明が建暦2年3月に執筆したもので、平成24年には成立800年という節目を迎えます。そこに展示されていたのは、現存最古の写本である大幅光寺本「方丈記」(重文)でしたが、展示室の隅に1四方のその大きさを示すテープが貼ってありました。
2010年暮れには、INAXギャラリーで「幕末の探検家松浦武四郎と一畳敷展」という展覧会がありました。まさに「一畳敷」、全国から贈られた古材で組み立てられた畳一畳の書斎で、旅に生きた生涯を振り返ったという。「一畳敷の書斎」が原寸大模型が展示してありました。正確には畳一畳と、その両脇に板敷きがあります。茶室よりも小さい。しかし床の間もあり、明かり取りの窓もあります。実物は、国際基督教大学に現存しているそうです。
「INAX ギャラリー」で、「一畳敷展」、「下平千夏展」、「杉本ひとみ展」を観た!
また、2011年3月に西和夫の「二畳で豊かに住む」(集英社新書:2011年3月22日第1刷発行)という本を読みました。夏目漱石や正岡子規の家というか部屋も出てきますが、建築家ではル・コルビュジエの「小さな家」が出てきます。両親のために1924年に完成したレマン湖畔の住宅で、広さは60㎡、18坪(36畳)、我々からすればだいぶ大きな家ですが、コルビュジエにとってはこれが最少だという。戦後に最小限住居として、「池辺陽の立体最小限住居」や「増沢洵の最小限住居」にも触れられています。中村好文も取り上げていますが、高村光太郎の花巻の奥の山小屋についても1章を設けて触れています。
4階の奥で映像が流れていました。中村好文がインタビューに答えていました。子どもの頃、家にあったミシンの下に隠れて遊んだことなど、原体験として語っていました。また、あれだけの大建築家であり大きなプロジェクトを世界中で行っているル・コルビュジエも、小さな小屋を造るんだと感動したことを、熱っぽく語っていました。3階の展示室には「古今東西7つの小屋」があります。中村が「ちっぽけな建築」と呼ぶル・コルビュジエの「休暇小屋」、立原道造の「風信子ハウス」、高村光太郎の花巻の家、堀江謙一のヨット・マーメイド号、等々。中村は、これらの小屋から学び、影響を受け、鼓舞されてきた、と述べています。
今回の展覧会の一番の見どころは言うまでもな、中庭に原寸大で建てられた「Hanem Hut」という独り暮らし用の小屋です。小屋で営まれる質素で豊かな暮らしぶりを頭に思い描きながら、小屋ならではの居心地を肌で感じ、味わってください、と中村は言う。下に中村の手書きの「見どころ」を載せておきます。もちろん、中村の手書きのスケッチや図面も「見どころ」のひとつです。
3階展示室
中庭展示
4階展示室
中村好文からのメッセージ
32歳で独立してから30数年間、おもに住宅設計と家具デザインの仕事をしてきました。そのあいだに、レストランやカフェを設計したり、小さな美術館や個人記念館などを手がけたりもしましたが、仕事のほとんどは住宅設計でした。「ビッグプロジェクトには見向きもせず、住宅ひとすじに……」と言いたいところですが、実際には「ビッグプロジェクトの方が、ぼくに見向きもしなかった」というのが本当のところです。ただ、このことは私の「望むところ」でした。もともと、建築家としての私の最大の関心事は「人のくらし」と「人のすまい」でしたから、身の丈を越えた大きな仕事を抱えて右往左往することなく、心おきなく住宅の仕事に取り組むことができたのは幸いでした。ところで、私の「人のくらし」と「人のすまい」への関心は、「住宅ってなんだろう?」を考えることでもありました。ある時期からは住宅の原型が「小屋」にあるような気がしはじめて、南仏のル・コルビュジエの休暇小屋や、ロンドン郊外のバーナード・ショーの小屋や、岩手県花巻の高村光太郎の小屋など、古今東西の小屋を世界各地に訪ね歩く旅を繰り返してきました。そして、8年ほど前からは、エネルギー自給自足を目指す私自身の小屋(「Lemm Hut」2005年、長野県)で、自然の恵みと自分自身に向かい合う質素な小屋暮らしを愉しむようになりました。「小屋においでよ!」と題した今回の展覧会は、そんな小屋好きの建築家が敬愛をこめて「小屋」に捧げるオマージュです。会場では、長いあいだ、私の心の中に住み続けてきた古今東西の小屋の名作について語るとともに、これまで私の手がけてきた「小屋」と「小屋的な住宅」を紹介します。そして、中庭にはこの展覧会を象徴する ひとり暮らしのための「究極の小屋」を展示します。この展覧会が、来場者のひとりひとりにとって、小屋を通じて「住宅とはなにか?」を考えるまたとないきっかけになってくれますように……。
中村好文:略歴
1948年千葉県生まれ。72年武蔵野美術大学建築学科卒業。72~74年宍道建築設計事務所勤務の後、都立品川職業訓練所木工科で家具製作を学ぶ。76~80年吉村順三設計事務所勤務。81年レミングハウス設立。99年~日本大学生産工学部建築工学科教授。1987年「三谷さんの家」で第1回 吉岡賞受賞、93年「一連の住宅作品」で第18回 吉田五十八賞「特別賞」受賞。
主な作品に、「三谷さんの家」(長野県、1985年)、「上総の家Ⅰ、Ⅱ」(千葉県、1991年、1992年)、「museum as it is」(千葉県、1994年)、「扇ガ谷の住宅」(神奈川県、1998年)、「ReiI Hut」(栃木県、2001年)、「伊丹十三記念館」(愛媛県、2007年)、「明月谷の家」(神奈川県、2007年)など。
著書に、『住宅巡礼』、『住宅読本』、『意中の建築 上・下巻』(以上新潮社)、『普段着の住宅術』(王国社)、『住宅巡礼・ふたたび』(筑摩書房)、『中村好文 普通の住宅、普通の別荘』(TOTO出版)など。共著に、『吉村順三 住宅作法』(吉村順三と共著、世界文化社)、『普請の顛末』(柏木博と共著、岩波書店)などがある。
建築家・中村好文氏は30年あまり首尾一貫して、クライアントの暮らしに寄り添った、普段着のように居心地のよい住宅をつくってきました。建物に新奇性や作品性を追い求めることをせず、主役は「そこに住む人たちであり、そこで営まれる暮らし」と考える中村氏の設計思想は、初めて家を建てる若い夫婦から独り暮らしの老婦人、サラリーマンから芸術家まで、幅広い世代やジャンルの人々に共感され、絶大な信頼を得ています。
「中村好文展 小屋においでよ!」
本展覧会では、「住まい」に自然体で向き合ってきた中村氏が「住宅の原型」として注目し、子供の頃から魅せられてきた「小屋」を通して、「住宅とはなにか?」を問い直します。会場は大きく3つのパートで構成されます。3階の第1会場では、「鴨長明の方丈」から「ル・コルビュジエの休暇小屋」まで、中村氏があこがれ影響を受けてきた「古今東西の7つの小屋」を紹介します。4階の第2会場では、中村氏がこれまでに設計してきた数ある住宅のなかでも、特に「小屋的な」住宅を選りすぐって紹介します。そして中庭には、原寸大の「ひとり暮らし用」の小屋を展示します。この小屋は、ここ数年来、中村氏が自身の小屋で実験してきたエネルギー自給自足型の小屋を究極のサイズにまで切り詰めたもので、この小屋で人の住まいと暮らしの原型に思いを馳せていただく趣向です。小屋を訪ね、小屋を体験し、小屋から学ぶ……中村好文氏ならではの「遊び心」満載の展覧会をゆっくりお愉しみください。
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