建築をやっている人で「GA」を知らない人はいません。なんらかの世話になっているはずです。二川幸夫の建築写真は、その確かな名鑑識眼で、世界的に認められています。1988年に「ヨーロッパ5ヶ国建築視察旅行」に参加し、スカルパの門を見るためにヴェネツィア大学を訪れた時、玄関を入ってすぐにある書店に、GAの本が平積みされていたのを見て、日本の建築の本がこれほど評価されているのかと驚いた記憶があります。それはすなわち、二川幸夫への評価です。なにしろそれまでの外国の建築の本は印刷が悪くて、とても見るに堪えないものばかりでした。
二川幸夫の本との出会いは、美術出版社から出された「現代建築家シリーズ」でした。各期5巻ずつ第3期に渡って刊行されたもので、当時の世界の有名建築家が勢揃いしていました。第1期第1巻はフランク・ロイド・ライトで、1967年10月10日初版とありますから、たぶん僕は、刊行の途中から購入し始めたと記憶しています。結局追っかけて安い給料の中、なんとか全15巻を揃えました。僕にとってこれらの本はバイブルみたいなものです。全巻写真撮影は二川幸夫で、定価は各巻1700円でした。そこで始めて二川幸夫は建築関連図書を扱う出版社「GA 」をつくることになったのではないかと思います。(A.D.A.EDITA Tokyo)
その後、たしか磯崎新のアドバイスだった?と聞いたことがありますが、グラフ雑誌のような大判の本とつくったら、というアドバイスを受けて建築写真集「GA (クローバル・アーキテクチュアー)」をつくります。世界の著名な建築家の作品を1~2作と特集で取り上げたものです。僕はそうそうお金もないので、アールトとかスカルパとか、好きな建築家の巻を1冊ずつ買っていたのですが、結局は全巻セットで買ってしまいました。その後は「GAジャパン」や「GAハウス」、「GAインテリア(GI)」等々、出すもの出すもの、次々と買うことになってしまいました。さすがにある時からピタリと止めましたが・・・。
そうそう、千駄ヶ谷にあるGAの本拠地「GAギャラリー」、これは早稲田の鈴木洵の設計で、コンクリート打ち放しのものです。今でも行っていますが、新進建築家の「模型展」を毎月のように開催していて、当時は毎回観に行ってました。その模型写真を使って「GAプロジェクト」という本にしていました。いずれにせよ、GAギャラリーに展示されるということは、若手建築家の登龍門でした。
二川幸夫の建築の旅は、1950年代、6年間にわたる日本に民家への旅を起点としています。「日本の民家」(二川幸夫撮影・伊藤ていじ文、美術出版社)には、大地とつながる民家の力強さ、そして民衆の働きと知恵とが見事に表れています。日本各地の民家を写した280点の写真から、再度2012年に約70余点を選びだして、最新のデジタル出力技術により新たにプリントをおこし紹介する展覧会です。日本の多くの原風景が失われたいま、1955年に遡って、若き日の二川幸夫がとらえた貴重な民家の姿を初の展覧会に見ていきます。
展覧会の構成は、以下の通りです。
・「京・山城」
・「大和・河内」
・「山陽路」
・「四国路」
・「西海路」
・「陸羽・岩代」
・「武蔵・両毛」
・「信州・甲州」
・「北陸路」
・「高山・白川」
なお、今回の会場構成は、近年、もっとも注目されている建築家、藤本壮介が手がけています。
日本の民家
「四国路」、「陸羽、岩代」、「高山、白川」
二川幸夫(ふたがわ・ゆきお)
1932(昭和7)年、大阪市生まれ。
大阪市立都島工業高校を経て1956年早稲田大学文学部卒業。在学中に建築史教授の田辺泰の勧めで民家と出会い撮影を始め、1957-59年、美術出版社から『日本の民家』全10巻(文:伊藤ていじ)として発表する。1959年同著で毎日出版文化賞受賞。1970年、建築書籍専門の出版社A.D.A.EDITA Tokyo Co.,Ltd.を設立し、今日に至るまで世界の建築を撮影し発表している。1975年アメリカ建築家協会(AIA)賞、1985年国際建築家連合(UIA)賞、1997年日本建築学会文化賞など多数受賞、1997年紫綬褒章、2005年勲四等旭日小綬章受章。
伊藤ていじ(いとう・ていじ)
1922(大正11)年-2010年。岐阜県安八郡北杭瀬村(現大垣市)生まれ。本名、伊藤鄭爾。
1945年東京帝国大学建築学科卒業。同大学助手、東京大学生産技術研究所特別研究員、ワシントン大学客員教授、工学院大学学長、文化財保護審議会委員、文化財建造物保存技術協会理事長を歴任する。1961年日本建築学会賞(論文) 受賞。主要著書に『中世住居史―封建住居の成立』(東京大学出版会)、『日本デザイン論』(鹿島出版会)、『日本の民家』、『重源』(新潮社)など。
「日本の民家一九五五年」
この国の自然と風土、歴史と文明のなかから生まれ、育まれてきた庶民の住まい「民家」。モダニズムの建築や今日の住宅を考える上でも、私たちの原点といえるでしょう。一方で快適で合理的なライフスタイルを優先する現代的な感覚にはそぐわなくなり、いにしえの民家は日本の風景から確実に姿を消しつつあります。1957年から59年にかけて発行された『日本の民家』全10巻は、日本が国際的な経済発展に向けて飛躍しようとしていた頃に、あえて民家の最期の美しさにカメラを向けて、世間を瞠目させました。大地とつながる民家の力強さ、そしてそこに蓄積された民衆の働きと知恵をとらえた280点のモノクロ写真は、現在、国際的に高く評価される二川幸夫が20歳前後に撮影したものです。文章は当時新鋭の建築史家、伊藤ていじ(1922-2010)が著しました。二川幸夫は確かな評価眼を通して見たものを建築写真として定着し、自ら主宰する出版社を中心に発表してきました。優れた建築を追って世界中を駆け巡り、比類のない作品を精力的に残してきた彼の建築の旅の原点は、この『日本の民家』にあります。本展は1955年にさかのぼって、若き日の二川幸夫がとらえた貴重な民家の姿、そして日本人の本来の逞しさと しなやかさを、選び抜いた約70点の作品にご覧いただきます。ここに見るような建築のあり方を、これからの 日本で再構成することはできるのでしょうか―そんな想像がふくらむ展覧会です。
著者:二川幸夫
発売美:2012年12月26日
出版社:ADAエディタートーキョー
二川幸夫の写真家、編集者としての原点
半世紀前のフィルムがデジタル技術で美しく蘇える。
古き日本がここにあります。
1957-59年に美術出版社から刊行されたB4版の「日本の民家」を、2012年の視点で再編集。
厳選されたカットのみで構成された永久保存版です。
過去の関連記事:
パナソニック汐留ミュージアムで「ジョルジュ・ルオー アイ・ラブ・サーカス展」を観た!
「ジョルジュ・ルオー アイ・ラブ・サーカス」展のご案内
パナソニック電工汐留ミュージアムで「ウィーン工房1903-1932」展を観た!
パナソニック電工汐留ミュージアムで「ルオーと風景」展を観た!
汐留ミュージアムで「建築家白井晟一 精神と空間」展を観た!
汐留ミュージアムで「ハンス・コパー展―20世紀陶芸の革新」を観た!
汐留ミュージアムで「ウイリアム・メレル・ヴォーリズ」展を観た!
パナソニック電工汐留ミュージアムで「建築家・坂倉準三展」を観た!
汐留ミュージアムで「あかり/光/アート展」を観た!
松下電工汐留ミュージアムで「バーナード・リーチ」展を観る!
「富本憲吉のデザイン空間」を観る!
「建築家グンナール・アスプルンド―癒しのランドスケープ―」展
「建築家・清家清展」を体感する!