山種美術館で「琳派から日本画へ―和歌のこころ・絵のこころ―」を観てきました。観に行ったのは2月13日でした。「琳派」については、出光美術館で「琳派芸術Ⅱ」を観た時に、以下のように書きました。
昨年(一昨年)は「琳派」についての展覧会がたくさんありました。抱一生誕250年」ということで、出光美術館、千葉市美術館、畠山記念館などで「琳派」を掲げた展覧会が催されました。過去、思い出すのは、2008年11月に東京国立博物館で開催された「大琳派展 継承と変奏」でした。本阿弥光悦、俵屋宗達、尾形光琳とその弟乾山、酒井抱一、鈴木其一の6人が、当然ですが全員取り上げられていました。「尾形光琳生誕350周年記念」と銘打っていました。
今あらためて気がついたのですが、「国宝・風神雷神図屏風」展、副題には「宗達・光琳・抱一 琳派芸術の継承と創造」とありました。そうなんです、「琳派」を話題にするとき、必ず出てくるのが「継承と創造」についてです。江戸時代前期の宗達の作品「風神雷神図屏風」、江戸中期の光琳の「風神雷神図屏風」、そして幕末期の今度は江戸の絵師抱一による「風神雷神図屏風」、このれらの作品は「琳派の継承」として典型的なので、よく取り上げられますが、「琳派の継承」としてはもっと幅広く取り上げられる必要があることを、その時の展覧会は示していました。また、「私淑」という言葉でも語られました。
第1章 歌をかざる、絵をかざる―平安の料紙装飾から琳派へ―
第2章 歌のこころ、絵のこころ―近代日本画の中の琳派と古典―
「琳派」についてさまざまな角度からの検証が行われている現在、山種美術館での今回の展覧会は、
琳派の造形に影響を与えた料紙装飾の華麗な平安古筆、そして江戸時代を中心とした琳派作品、その後に至る近代・現代の日本画を通じ、「和歌」と「装飾性」の視点から、選りすぐりの名品を紹介すること、となっています。「料紙装飾」、簡単には理解できない言葉です。「記された和歌を視覚的に飾るために発達した料紙装飾」とあり、「そこで培われた感性は、琳派の華麗な装飾、斬新な意匠を形成した一因」としています。なるほど、ちょっとわかったような・・・。
それはそれとして、今回の目玉は、もう何度も観ていますが、酒井抱一の「秋草鶉図」でしょう。朝日新聞の「美の履歴書293」には「なぜ黒を選んだのか」と題して、以下のように書いています
上限を過ぎた月が西に傾き、清けき秋の野に鶉(うずら)が遊んでいる。夜も更けた。頬に冷気を覚える静けさは薄(すすき)を描く線の鋭さのせい、とばかりは言えないだろう。秋草の直線と曲線の重奏。鶉と月の形の呼応が生み出すリズム。そして、なんと言っても画面を切り取ったかのような黒。この一色が、まばゆい金地を引き締めている。
往々にして月に用いられる銀は、空気の触れると変色する。しかし、この屏風の黒は歳月がもたらしたものではなく、あらかじめ意図して描かれた可能性があるのだという。抱一は水墨画において月光を薄墨のシルエットで表そうとするなど、その表現にはこだわりがあったとされる。・・・絵師は何を思い、黒を選んだのか。やがて巡り来る秋の月に訪ねても、きっと風が吹くばかり。(増田愛子)
第1章 歌をかざる、絵をかざる―平安の料紙装飾から琳派へ―
書をしたためる料紙を飾ることは奈良時代から行われていましたが、平安時代には仮名の発達とともに華やかさを増し、金銀を多用した豪華な料紙が美麗な書を飾るようになりました。こうした料紙装飾の伝統を積極的に受容したのが、江戸時代に興隆を極めた琳派です。俵屋宗達が金銀泥で絵を描き、本阿弥光悦が和歌を書した一連の作品では、絵と書とが競い合いながら、大らかで大胆な表現が展開しています。そこで発揮された宗達の卓越したデザイン感覚は、琳派の造形のトレードマークでもある装飾性へと発展しました。
また、琳派では書の作例だけでなく絵画においても和歌が重要なテーマになっており、歌人や歌の景色に所在した屏風や掛軸などが数多く制作されました。物語絵でも歌物語と称される「伊勢物語」が重視され、琳派を継いだ画家たちがこぞって「八ッ橋」などの主題に取り組んでいます。
第2章 歌のこころ、絵のこころ―近代日本画の中の琳派と古典―
琳派の芸術は、近代以後の日本画家たちにとって魅力的な存在でした。明治30年代から40年代は尾形光琳へ、さらに大正期に入る頃には俵屋宗達へと注目が集まります。近代日本画家たちの琳派に対する憧憬と研究は、横山大観や菱田春草、下村観山など日本美術院の画家たちに端を発します。古典を大胆にアレンジする技術、「装飾性」を意図した画面構成や平面的な造形感覚といった琳派の特色が、多くの日本画家の間にも流行し、数々の作品が生み出されました。
伝統的な表現手法の枠を超え、日本画のさらなる飛躍を求めた近代の画家たちにとって、琳派は日本画の存在意義を確認しうる精神的な拠り所であると同時に、創造の源泉として、広く浸透しました。第一章で取り上げた、和歌をはじめとする古典文学と結びついた絵画の伝統は、後世の画家たちにも「伊勢物語」の絵画化などを通じて受け入れられていったのです。
「琳派から日本画へ―和歌のこころ・絵のこころ―」
近年、琳派ブームは非常に盛況で、国内外を問わず展覧会が開催されるほど、人々の心を惹きつけてきました。同時に様々な角度から琳派を問い直す検証も行われています。本展覧会では、琳派の造形に影響を与えた料紙装飾の華麗な平安古筆、そして江戸時代の琳派作品、その後にいたる近代の日本画を通して、「和歌」と「装飾性」の視点から、数々の名品をご紹介いたします。20世紀初頭より、江戸時代の琳派の作品は、近代の日本画家たちによって繰り返し研究され、取り入れられてきました。一方で琳派の絵師たちも、やはり遡(さかのぼ)る時代の古典に源泉を求め、様式を確立した一面があります。例えば主題においては『伊勢物語』や、『源氏物語』を絵画化し、また造形面では、記された和歌を視覚的に飾るため、平安時代に発達した金銀の料紙装飾を、様々な形で応用しました。そこで培われた感性やデザイン感覚は、琳派の華麗な装飾、斬新な意匠を形成した一因といえるでしょう。このたび平安時代の料紙装飾の名品《石山切》【重要美術品】や初公開となる後陽成天皇《和歌巻》【重要美術品】、細川幽斎《和歌短冊》○など、当館秘蔵の古筆コレクションを一堂に揃え公開いたします。また後の絵師達に繰り返し図様が描かれた伝俵屋宗達《槙楓図》(山種美術館蔵)、『伊勢物語』が主題の尾形乾山《八橋図》【重要文化財】(文化庁)や、深江芦舟《蔦の細道図》【重要文化財】(東京国立博物館蔵)など琳派の名品に加え、近代の横山大観、下村観山や速水御舟らの琳派研究の成果が結実した数々の作品も展示します。江戸時代から20世紀にいたる画家たちが、和歌や古典文学、そして装飾性をどのように摂取し、絵画化していったかをご覧いただける特別展といたします。本展覧会を通じて、千年にわたり受け継がれてきた和歌の伝統にふれ、古今の造形美の競演をお楽しみいただければ幸いです。
特別展
琳派から日本画へ
―和歌のこころ・絵のこころ―
監修:
山下裕二(山種美術館顧問・明治学院大学教授)
編集・執筆:
山種美術館学芸部(高橋美奈子/三戸信恵/南雲有紀栄)
発行:山種美術館
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