李妍焱の「中国の市民社会―動き出す草の根NGO」(岩波新書:2012年11月20日第1刷発行)を読みました。同じ岩波新書で、趙景達の「近代朝鮮と日本」と同時に購入したのですが、こちらは読むのが遅くなってしまいました。2年前でしたが、やはり岩波新書の「中国は、いま」を読みました。さまざまな問題はあるものの、中国も少しずつ変わり始めているのを実感しました。そうした現在の中国で、市民社会レベルでどのような変化が起きているのか、大いに興味があり、この本を手にしました。
以前、山崎亮の「コミュニティデザインの時代」を読みました。日本で、山崎は人と人とのつながりを基本に、地域の課題を地域に住む人たちが解決し、一人ひとりが豊かに生きるためのいコミュニティデザインを実践している活動家で、この本の中で日本の住民参加型の街づくりの歴史にも触れています。それをふまえて「中国の市民社会―動き出す草の根NGO」を読むと、中国と日本のNGO(非政府組織)/NPO(非営利組織)の展開は一方がもう一方を後から追う直線的なかたちではないことがよく分かります。
著者は、以下のように言います。NGO/NPOの展開の潮流は世界的であると同時に地域的であり、普遍的であると同時に個別的でもある。NGO/NPOのそれぞれの地域性と個別性に着目することによって、この分野が内包する多様性と豊かさをより理解し、より多くの可能性を弾き出すこともできるようになる、と。
公共の問題に対する民間の取り組みと動向は、その社会の変動を反映するだけではなく、その社会の今後の行方にも影響を与える。「先進―後進」の軸に収まることなく、、同じアジアの国として、中国のNGOの展開に目を向けることは、中国社会の変動を捉え、日本人が新たな視点に元ずく中国認識の第一歩となろう、と著者は述べています。
市民社会とは、非政府、非営利の立場から人々が自らのイニシアティブによって公共の問題について考え、行動する社会と、著者は定義します。公共問題に対する人々の参加の権利(法的・行政的保障)、参加の仕組み(場・ネットワーク)、参加の文化(参加する意識と習慣)という3つの歯車がかみ合い、動き出したときに、市民社会は大きく進展する、という。
第1章では、NGOの登場とダイナミックな活動展開を、改革開放後の中国社会の変化の節目に添って描き出しました。第2章では、NGOの実力と立場を強化し、人々の参加の意識と習慣を育んでいくためのNGO側の戦略を、その活動分野の背景とともに紹介しました。第3章では、公益領域を民間の手に取り戻すためのソーシャル・ビジネスの潮流を、社会変革につながるか否かを検討しています。
社会主義体制は、党と政府が公共問題のイニシアティブのすべてを握ることを特徴とします。にもかかわらず、異なる視点、異なる立場から公共問題に携わる「参加の仕組み」を創り上げようとするNGOなどの民間組織が、中国社会に現れたこと自体、社会主義体制の大きな変化を示唆している。中国はもはや、党と政府がすべてをコントロールする国ではなく、市民社会の活性化は、中国社会の多様化と活力につながる、と著者は述べています。
本のカバー裏には、以下のようにあります。
中国社会の問題に向き合う、草の根の非政府組織が力を伸ばしている。出稼ぎ農民工の支援、農村女性の教育と就労、環境調査と汚染追跡、住民参加のコミュニティ支援まで、知識人世代から若手起業家時代へと展開してきたその市民力に、国家も一目置かざるを得ない。地洞な日中交流を積む社会学者が、そのビジョンと知性、実践力を紹介する。
李妍焱の略歴を、以下に載せておきます。
1971年、中国・長春うまれ。1993年、吉林大学外国語学部日本語学科卒、東北大学大学院文学研究科人間科学専攻博士課程修了。専攻、社会学、NPO研究。現在、駒澤大学文学部社会学科准教授。日中市民社会ネットワーク(CSネット)代表。著書「ボランタリー活動の成立と展開」(ミネルヴァ書房)、共著「中国のNPO」(第一書林)。編著「台頭する中国の草の根NGO」(恒星社厚生閣)、共編「NPOの電子ネットワーク戦略」(東京大学出版会)。
目次
はじめに 「予想外」の中国へ
第1章 中国社会に「NGO人」登場
第2章 草の根NGOの戦略
第3章 ソーシャル・ビジネスの可能性と隘路
第4章 市民社会の底力
おわりに 個人として、そしてNGO人同士で
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