33年前の旧東ドイツ。秘密警察に監視されながら西側への逃亡を図る女性医師を描く「東ベルリンから来た女(原題:バルバラ)」を観てきました。たとえば傑作と誉れの高い「善き人のためのソナタ」を始め、「東ドイツもの」も出尽くした感がありますが、そうはいっても1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊して、はや24年も経ち、新たな視点で東ドイツを描いた傑作が生まれました。東ドイツと言えば、短絡的かもしれませんが、猜疑心の渦巻く時代の秘密警察(シュタージ)の存在を忘れることはできません。
1980年夏、旧東ドイツ、バルト海沿岸の田舎町の病院に一人の美しい女医が来ました。彼女の名はバルバラ。かつては東ベルリンの大病院に勤務していたが、西側への移住申請を政府にはねつけられ、秘密警察(シュタージ)の監視付きで、この地に左遷されてきたのでした。新しい病院の同僚アンドレから寄せられるさりげない優しさにもシュタージへの密告ではないかと猜疑心が拭いきれません。西ベルリンで暮らす恋人ヨルクとの秘密の逢瀬や、自由を奪われた毎日にも神経がすり減っていきます。そんなバルバラの心の支えとなるのは患者への献身と、医者としてのプライドでした。同時にアンドレの誠実な医師としての姿に、尊敬の念を越えた感情を抱き始めます。しかし、ヨルクの手引きによる西側への脱出の日は、刻々と近づいてきます。
ペッツォルト監督は旧西独生まれだが、両親は1950年代に旧東独から逃亡してきました。東の小さな村に住む祖母ら親類や友人を毎年夏に訪ねたという。「東は監獄のような国歌だったが、私たちにとっては同時に夢の中の世界だった記憶もある」と語っています。東西ドイツ統一後、旧東独は映画などで「暗い灰色の社会」と類型的に示されることが多いのが気になっていた、とペッツォルト監督はいう。自らの記憶や徹底した調査から、当時の東独の田舎町と人々をリアルに描いた、という。いずれにせよ、東独時代の記憶は、人々にとって「癒えるのに非常に長い時間を要する傷」であると言われています。
ヒロインのバルバラ役を演じた美貌の女優ニーナ・ホスです。いや、いい女です。彼女がいてこそこの映画が成立した、と言っても過言ではないでしょう。その傑出した演技で、バルバラの魂の叫びを体現しました。颯爽と自転車に乗るところがいい。一方、相手役の医師アンドレは、小太りの、決してイイ男とは言えませんが、誠実さをその存在と身体で表現していました。東西ドイツが統一されて20数年の歳月が流れました。西側への脱出の日が刻々と近づくなかで、バルバラが下す最後の決断は・・・。
以下、とりあえずシネマトゥデイより引用しておきます。
チェック:ドイツの新鋭クリスティアン・ペツォールトが監督と脚本を担当し、旧東ドイツで疑心暗鬼に駆られつつ生きる女医の姿を描いた衝撃作。ベルリンの壁崩壊前の不自由な時代、厳しい監視の目をかいくぐって脱出を試みようとするヒロインの揺れ動く感情を牧歌的な風景と共に描き出す。美ぼうの下に情熱を秘めた主人公を演じるのは、『ブラッディ・パーティ』のニーナ・ホス。苦難の日々の中で、もがきつつも必死に生き抜こうとする女性の姿に涙があふれる。
ストーリー:1980年夏、医師のバルバラ(ニーナ・ホス)は東ベルリンの大病院からバルト海沿岸にある小さな町の病院に赴任する。西ドイツへの移住申請を却下され左遷された彼女は、上司のアンドレ(ロナルト・ツェアフェルト)にも笑顔ひとつ見せず同僚とも打ち解けようとはしなかった。そんなある日、矯正収容所から逃げようとするも病気になってしまったステラ(ヤスナ・フリッツィー・バウアー)が運び込まれ……。
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