シネスイッチ銀座で、レア・フェネール監督の「愛について、ある土曜日の面会室」を観てきました。刑務所の面会人へのボランティア活動を3年間務めた28歳の若き女性監督が、自らの経験から着想を得た巧みな脚本、登場人物たちのリアルな言葉は、観るものを釘付けにします。
チラシの裏には、以下のようにあります。
フランス・マルセイユ――ロール、ステファン、ゾラは、同じ町に暮らしていてもお互いを知らない。ある土曜日の朝、3人はそれぞれの悲しみや痛みを受け入れて、運命を切り開くために刑務所の面会室へと向かう・・・。28歳の新星レア・フェネールが、女性ならではの包み込むような優しさと力強さで“心の軌跡”を丁寧にあぶりだす。美しくも重厚な感動のヒューマンドラマ。
監督のレア・フェネールは、以下のように語っています。
刑務所の脇で泣きわめく女性を見かけました。壁の内側にいる男性―おそらく夫に話しかけようと、つま先立ちになり細い身体を伸ばして叫んでいました。人々の視線、車の騒音、分厚い壁、有刺鉄線、そして檻をも超えて、男と女が親密な愛情を交わしていたのです。彼女の自由な魂に深く心を動かされました。この映画は、あのときの彼女の叫びから生まれたのです。
「愛について、ある土曜日の面会室」は、冒頭「私を助けて。夫が連行されたの」と刑務所の前で子連れの女が泣き叫んでいます。それぞれに事情を抱えた面会人が集まっていますが、泣き叫ぶ子連れの女をただ冷たく見下ろすだけで、誰も声をかけません。このシーンは、ラスト直前に、再び繰り返されます。
アルジェリアの空港に飛行機が着き、貨物室から一つの棺が降ろされます。受け取りにきたのは中年の女性ゾラ。部屋に運び込まれた若い遺体を裸にして、水に濡らした白い布でゆっくりと拭き始めます。胸部に刃物で刺された傷口が見えます。殺された若い男を、その母親が埋葬の前に清めていたのでした。そして母親は息子が殺されたマルセイユへと旅立ち、加害者の姉セリーヌと接触を深めていきます。ある日、誰も弟の面会に訪れないとセリーヌから打ち明けられ、ゾラは自分が会いに行くことを提案します。そしてゾラは、母親として知ることのなかった息子の人生を辿っていくことになります・・・。
この映画は、その母親だけの物語ではありません。ここには三つの物語があります。まず、母親の死んだ息子への愛。少女のやくざな若者への愛とも呼べない愛。そして男の腐れ縁のような関係を続けている女への愛。
サッカーに夢中な少女ロールは、バスで出会った宿無しの風変わりな少年アレクサンドルの自由さに惹かれてしまいます。アレクサンドルはロシアからの不法移民か? 束の間の楽しい時間の後、アレクサンドルは警官に暴行を働き逮捕されてしまいます。ロールが面会に行くと未成年者は成人の付き添いが必要だといわれます。親にも言えず思い余ったロールは、献血車で知り合った病院スタッフのアントワンに付き添いを頼み、アレクサンドルに会いに行くことができましたが・・・。
オートバイで配送をしているステファン。いつも金に困り、母親にも愛想を尽かされ、同棲している恋人エルザと揉め続けています。ステファンは移民2世か? ある日、暴漢に襲われた恋人を助けてくれたピエールと知り合う。彼はステファンの顔を見るなり異様なほど驚き、お前は自分の知り合いに瓜二つだ。そいつは何十年もの罪で刑務所に入っている。面会室で会い、看守の好きを見て入れ替わってくれないか。謝礼は人生を変えるくらい払うからと。ステファンの心は揺らぎます・・・。
母親のゾラ、未成年のロール、身代わりにと誘われたステファン。彼らは、ある土曜日の朝、3人はそれぞれの悲しみや痛みを受け入れ、運命を切り開くために刑務所の面会室へと向かいます。その三つの愛が一つの物語として収斂するというわけではありません。3人がそれぞれの相手と、それぞれに向かい合うだけです。彼らはお互いを知ることなく、それぞれの人生へと帰って行きます。
以下、とりあえずシネマトゥデイより引用しておきます。
チェック:フランスのマルセイユを舞台に、世代も育ってきた環境も違う3人がそれぞれの思いを抱えつつ刑務所の面会室に向かう姿を描いた感動作。本作で長編デビューを飾ったレア・フェネール監督が、傷つきながらも前へ進もうとする人々の心の軌跡を丁寧にすくい取る。『ジョルダーニ家の人々』のファリダ・ラウアジや『トレジャー・アイランド』のレダ・カテブら個性派俳優が共演。等身大の登場人物たちのリアルな言動が胸に突き刺さる。
ストーリー:サッカー少女ロール(ポーリン・エチエンヌ)は、バスの中で出会った少年アレクサンドル(ヴァンサン・ロティエ)と恋に落ちる。やがて2人は共に幸福な時間を過ごすようになるが、ある日警官に暴行を働いたアレクサンドルが逮捕されてしまう。一方、ステファン(レダ・カテブ)は恋人や母親との関係がうまくいかずに悩んでいた。
「愛について、ある土曜日の面会室」公式サイト