松濤美術館で「シャガールのタピスリー展」を観てきました。副題は「マルク・シャガールとイヴェット・コキール=プランス 二つの才能が織りなすシンフォニー」とあります。その題名の通り、画家マルク・シャガールと、その幻想世界を彼の絶対的信頼の元でタピスリーに描いたイヴェット・コキール=プランス。この二人の表現世界に注目した展覧会です。
イヴェットが最初に制作したシャガール作品は「アルルカンの家族」(1966年)。二人が出会ったのはシャガールが77歳、イヴェットが36歳の時だったという。彼女の才能は「シャガール以上にシャガール」と、シャガール自身も認めるほどでした。作品はイヴェットが選び、写真に撮ってタピスリー完成時の実寸大に引そのものき伸ばして下絵にしました。忠実に絵画を再現するとかえってシャガールらしさが失われるといい、タピスリーの見え方に合わせて色彩などを調整していきました。(朝日新聞:「美博ピックアップ」より)
展覧会の構成は、以下の通りです。
地下1階
・サーカス
・聖書
2階
・雄鶏と恋人たち
・花束と人物
・地中海の青
・色の分割
まず、地下1階の展示室に入ると「サーカス」の油彩や版画、タピスリーが続きます。そして緩やかに円弧を描いた展示室の中央に、二人による最大の作品、縦410cm、横620cmのタピスリーの大作「平和」(1993年)が壁に掛けられています。白井晟一の手になるこの吹き抜けの展示場は、まさにシャガールのタピスリーのためにあるような展示場です。タピスリーは全部で16点、どれもシャガールの作品の色彩やテクスチャーをそのまま見事に表現しています。油彩は10点、どれも一目でシャガールらしい色彩の作品です。他に、リトグラフが30数点ありました。いずれにせよシャガールのタピスリーの素晴らしさは、会場で実物を観なければ伝わりません。
油彩
タピスリー
20世紀を代表する巨匠マルク・シャガール(1887-1985年)。シャガールは、一枚の絵画を完成させるために、数十枚のスケッチやドローイングを残していますが、それ以外にも、コラージュやタピスリー、テキスタイル、ステンドグラス、陶器などといった様々な手法を用いた作品を残しています。それらの手法から得られた色彩や構図は、そのまま自身の絵画世界へと還元され、より魅力的で豊潤な世界を生み出すようになったのです。そこで本展では、シャガールの世界観を形成した「サーカス」や「花束と人物」、「色の分割」、「おんどりと恋人たち」「地中海の青」などいくつかのテーマに沿って、シャガールが試みた様々な手法の中から、特にタピスリーを中心に、油彩や版画を織り交ぜながら、そこに表現された世界を紹介します。このタピスリーを制作したのは、シャガールが最も信頼したタピスリー作家のイヴェット・コキール=プランス(1928-2005年)です。イヴェットが紡ぎ出したタピスリーは、シャガールの絵画に表れている本質を失うことなく、色彩やリズム、大胆な構図がそのままうつしとられ、時にはシャガールによる絵画以上に、「シャガール」そのものを体現しているといえます。このことはシャガール自身が認めていることであり、二人のアーティストが試みた新たな表現世界の成果でもあります。このタピスリーを中心とした本展では、シャガールとイヴェットという二人が織りなす素晴らしき表現の世界を、私たち自身が体感する大変貴重な機会となり、新たなシャガールの魅力の発見にもつながることでしょう。
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