Tomorrow-建築の冒険-
僕らが幼かった頃、色んな夢を見たと思う。その夢を実現するために、数々の冒険があった。美味しい木の実を食べるために、裏山に友達と分け入った。漁師になる夢を見て、自分の作った銛(もり)を手に、海に潜り魚を刺した。幼い思考の中で、世の中の成り立ちは全てがフラットに構成されていると思い、なんでも可能だと思っていた。だから、夢を実現しようとする毎日が冒険であり、不安や危険とともに、ワクワクとした興奮と未知なる到達点への期待を楽しんだ。冒険の毎日が過ごせたらどんなに幸せだろう。例えばこういうモノが欲しいと思ったら自分でとことん調べ、他の人に質問し、世の中に無いとわかったら第二のエジソンを夢見て自分で実現すべく七転八倒する。他人から見たらお粗末に見えるかもしれないが、当人としては凄く面白い。真剣に面白がることこそが、冒険の真骨頂だ。
僕は50歳を越えた。でも冒険をやめるという大人の選択はしなかった。その中で、素材の探求という冒険の一つに出合えた。その素材とは単なる材料という意味だけではなく、物事の本質、行動することの原点を意味する。僕が素材を扱うのは、まだ見ぬ可能性がたくさん潜んでいるから、そして小さな素材の開発が世の中を根底から変える原動力と成り得るからだ。20世紀がコンクリートと鉄とガラスにより、大きく変化したように。人々が不可能と思うところに面白さが存在し、世の中の変化を促す「種」が潜んでいるのだ。それを探し当てることこそ、まさに冒険だ。僕らは2011年の大きな出来事を通して、我々の社会の中で、信頼できないことが数多くあることを知り、20世紀型の工業や経済をベースにした建築のあり方を修正しなければならないことに気づいた。これからの建築とは、そこに住んでいる人々やその地域の自然から祝福されるべきものであると思っている。皆の冒険の連続が明日を生みだし、明日を変えていくはずだから。――――山下保博
TOTOギャラリー間で「山下保博×アトリエ・天工人展」を観てきました。副題に「建築の冒険」とあります。僕は山下保博については、年代的に違うこともあってか、接点もなく、ほとんど何も知りません。かろうじて初期の作品、「ペンギンハウス」を覚えていました。その時は、構造的に詰めて新しい建築のかたちや考えを出す建築家、というような印象を持ちました。しかし、その後の活躍というか、仕事の範囲の広がりなどは今回初めて知り、目を見張るモノがありました。やはり山下は、数多くの自由な構造体を生み出していました。
その山下が、街づくりまでを視野に入れた仕事をしていること、これには驚きました。ただ建築の技術的な範囲で仕事をしている建築家から、広く街づくりまでを射程に入れていることは、職能としても素晴らしいことです。4階に展示されていた二つの街づくり、「神奈川県藤沢市遠藤プロジェクト」と「福岡県H町プロジェクト」は大きく期待が持てます。土着性や風土性からは、「エチオピア・ミレニウム・パビリオン」は興味深いプロジェクトです。移動可能な建築「モバイル・すまいる」も面白そうです。「熱の美術館」では様々な実験を試みています。
今回のギャラリー間での展覧会の大きな特徴は、なんと言っても山下が計画している「土の礼拝堂」のモックアップでしょう。実際は「土ブロック」のようで、会場にも一部使われていましたが、他の多くはOSBを使用したブロックでした。これがまた、いい質感を持っていて、いい雰囲気を出していました。さらに壁に明けられた十字架形の開口部によって、光が差し込む神秘的な様子が想像でき、展示会場としては見事なスペースを創り出していました。
藤森輝信は、山下保博について次のように語っています。「山下さんは、20世紀全体をちゃんとやっている人ですよ。ひとつ言えるのは、建築というものの全体をやっている人です。そうすると、仮に建築がこんなかたちをしたものだとすると、全体をやった結果、山下さんはその建築のかたちに重なっているんですよ」と。(「Tomorrow――建築の冒険」より)
「山下保博はどのような建築家なのか?」、それを知ってもらうために彼自らが作成したマトリックスが、下の表です。縦列を「コト」として7つに、横列を「モノ」として同じく7つに区分したマトリックスをつくり、そこに山下が手がけた作品をプロットしてあります。ちなみに縦列のコトは、仕掛ける、支援する、共に創る、開発する、共に学ぶ、発信する、つながる、の7つからなっています。また横列のモノは、構造からの冒険、環境からの冒険、五感からの冒険、再編集する冒険、化学からの冒険、、重力からの冒険、まちづくりの冒険、の7つからなっています。
山下保博は、1960年鹿児島県奄美大島生まれ。86年芝浦工業大学大学院修了。91年山下海建築研究所設立。95年事務所名をアトリエ・天工人(テクト)に改称。99~2011年芝浦工業大学、東京大学大学院、東京理科大学、慶應義塾大学大学院にて非常勤講師。11年より九州大学非常勤講師。
「山中保博×アトリエ・天工人展」
本展覧会は、挑戦的な建築をつくり続けている建築家、山下保博氏(1960年生まれ)の20年にわたる活動を総覧する初の個展となります。土ブロックによる構造を現代日本に初めて実現した「アース・ブリックス」(2011年)に代表されるように、山下氏は常識にとらわれない新しい「モノ」を発想するだけでなく、クライアント・施工業者・大学・建材メーカーなどを巻き込んで「コト」を動かし、「モノ」を現実化することができる、たぐいまれな実行力をもっています。本展覧会では、土ブロックによる構造の次の展開として山下氏が計画している「土の礼拝堂」のモックアップが1:1スケールで出現。最大高さ4.9メートルあまりの壁にあけられた十字架型の開口部によって、無数の光の十字架に包まれる神秘的な空間体験ができます。また、山下氏のこれまでの活動を「モノとしての7つの冒険」「コトとしての7つの冒険」の両面から捉え、その全貌をご紹介します。
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