青山スパイラルで「呼吸する環礁(アトール)―モルディブ・日本現代美術展」を観てきました。「モルディブ」というと、思い出すことがあります。1980年代半ばに設計事務所を開いたばかりの仲間何人かと、協同で仕事をしていくことができないかということで、青山のある事務所の会議室を借りて、毎週のように集まっていた時期がありました。そのグループの仲間の一人から、ある商社からモルディブに行ってもらえないか、という耳よりの話が舞い込みました。
その商社がモルディブ周辺のマグロを買い取るための調査という名目でしたが、実際にはほとんど観光でした。その耳寄りなモルディブ旅行に、どんな理由があったかは思い出せませんが、僕は行くことができませんでした。仲間の何人かは、リゾート気分で風光明媚なモルディブを満喫して帰ってきました。帰国後、スライドによる報告会が行われ、モルディブの手つかずの自然、素晴らしい珊瑚礁の景色を見せつけられました。いまのようにモルディブがリゾート地として、あまり知られていなかった頃のことでした。
「呼吸する環礁(アトール)―モルディブ・日本現代美術展」は、日本とモルディブのアーティストが、モルディブの環境や自然、風物、文化をテーマに現地で製作した作品を展示するもので、首都マレの国立美術館で開催されました。展覧会は、インスタレーション、映像、建築、写真、ドローイングなどさまざまな表現により、日本人6組とモルディブ人2人の アーティストが参加しました。本格的な現代美術展としてはモルディブ初となったこの展覧会は、大いに好評を博したという。今回、モルディブにおける展示を再構成し、スパイラルにおいて「帰国展」として開催されました。
淀川テクニック
淀川テクニックとは、柴田英昭、松永和也のユニットです。淀川テクニックの、圧倒的な迫力で迫る「さざれ魚」は、ペットボトルなどマレ市内で拾い集めたゴミで作った小さな熱帯魚を組み合わせて、1匹の大きなハガツオの形にしたものです。会場ではマレ市内でのゴミ拾いをしている映像が延々と流れています。さざれ石とは、小さな石のことを指すが、それらが長い年月をかけて凝結してできた大きな岩の塊のことも指します。
藤森輝信
藤森輝信の作品は「Human Nest, Maldives」、人一人が過ごすことのできるヒトの巣を設え、人間が生きていくために必要な環境について再考したものです。現地の人々とともに、外壁を日本の伝統的工法である「焼杉」で仕上げ、モルディブのヤシの葉で屋根を葺きました。東京での展示は、ヤシの葉の代わりに杉皮で屋根が葺かれていました。会場にはモルディブの作業の様子や、茅野市の藤森茶室「高過庵」や、茅野市美術館前庭にあった「空飛ぶ泥舟」(藤森の実家の畑に移設したようです)の映像が流れていました。
荒神明香
荒神明香の作品は「Fenn Fashala Lens」、モルディブの美しい海に魅せられ、夜の海に入りました。独特の圧迫感と浮遊感に包まれるとともに、薄い水面を隔ててまったく異なる世界が広がるように感じたという。その感覚を大小さまざまな大きさのアクリス・レンズを繋いで再現しました。
田口行弘
田口行弘の作品は「MAGU」、始めて訪れたモルディブの首都マレで、イスラム教徒の女性が身にまとう色とりどりの布に惹かれたという。凹凸のある表面に布をあて、その上から絵の具を塗り、ものの形をこすり出すフロッタージュの技法を使って、気になる事物を写し取ります。
Breathing Atolls: Japan-Maldives Contemporary Art Exhibitionin Tokyo
(呼吸する環礁(アトール):モルディブ・日本現代美術展)帰国展
期間 : 05.24~06.03会場 : スパイラルガーデン (スパイラル1F)
大小約1,200の島々から成るモルディブ共和国は、ゆるやかな環を描くように青い海に点在する「アトール(環礁)」と呼ばれる珊瑚礁で形成された独特の美しい自然環境で知られていますが、近年は、地球温暖化による海面上昇などにより、水没の危機に瀕しています。モルディブにおける展覧会に先立ち、日本人アーティストが現地でリサーチを行い、日本とは異なるモルディブ固有の地理的・文化的環境、人々の暮らしなどをつぶさに観察し、現地の人々と交流を重ねながら滞在制作を行いました。展覧会では、インスタレーション、映像、建築、写真、ドローイングなどさまざまな表現により、日本人6組とモルディブ人2人のアーティストがモルディブの自然環境や風物、文化をテーマとした作品を展示しました。今回、モルディブにおける展示を再構成し、スパイラル(東京)において帰国展を開催します。
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