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Channel: とんとん・にっき
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朝比奈秋の「サンショウウオの四十九日」を読んだ!

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朝比奈秋の「サンショウウオの四十九日」(新潮社:2024年7月10日発行)を読みました。

 

今回、候補作が発表されてすぐに、他の候補作はすぐに掲載された文芸誌が購入できましたが、「サンショウウオの四十九日」が掲載されている「新潮5月号」だけが「取扱していません」と出て、結局、購入できませんでした。まあ、単行本が発売予定だったことで、そういう結果になったのでしょうが、それにしても姑息なやり方で大いに憤慨しています。

 

同じ身体を生きる姉妹、その驚きに満ちた普通の人生。

医師である気鋭が描く、世界が初めて出会う物語。

 

いま最も注目される作家が医師としての

経験と驚異の想像力で人生の普遍を描く。

 

叔父が亡くなった。誕生後の身体の成長が遅く心配された伯父。その身体の中にはもう一人の胎児が育っていた。それが自分たち姉妹の父。体格も性格も正反対の二人だったが、お互い心を通い合わせながら生きてきた。その片方が亡くなったという。そこで姉妹は考えた。自分たちの片方が死んだら、もう一方はどうなるのだろう。なにしろ、自分たちは同じ身体を生きているのだから――。

 

ここからは持論になるが、医者や科学者たちの多くは意識と知性、または意識と思考を同一視している。宗教書か哲学書だったか、かつて読んだ書物に書かれていた言葉を借りるなら、意識はすべての臓器から独立している。もちろん、能からも。つまり、意識は思考や感情や本能から独立している。生きていくに従って、だいたいの人は意識や知性や感情や本能などに癒着していくのだろうが、それでも元から独立している。タチアナ・クリスタ姉妹同様、生まれつき脳を、というよりあの姉妹以上に繋がって生まれ、すべての臓器をシュエしている立場から言えば、意識がすべての臓器から独立しているのは言うまでもない。脳を共有して考えようが、胸の高鳴りを同時に感じようが、空っぽの胃に片方が食べ物を放り込んで食欲を満たしてくれようが、二人の意識は混じらない。個別に同時に体験しているだけだ。意識はすべての臓器から独立している、と初めて読んだ時も驚くことなく、この世の中に自分たちをわかってくれる人がいたと喜んだのを覚えている。

 

朝比奈秋:

1981年京都府生まれ。医師として勤務しながら小説を執筆し、2021年、「塩の道」で第7回林芙美子文学賞を受賞しデビュー。2023年、「植物少女」で第36回三島由紀夫賞を受賞。同年、「あなたの燃える左手で」で第51回泉鏡花文学賞と第45回野間文芸新人賞を受賞。本作が第171回芥川龍之介賞候補となる。他の作品に「私の盲端」「受け手のいない祈り」など。

 

朝日新聞:2024年7月18日


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