小川洋子の「アンジェリーナ 佐野元春と10の短編」(角川文庫:平成9年1月25日初版発行、令和5年9月30日14版発行)を読みました。
初めて「佐野元春と10の短編」という企画を聞いたとき、本当にうまくいくのだろうかと不安でした。わたしはもう10年以上彼のファンで、守拙が行き詰った時、彼の歌を聴いて想像力をかきたてたり、コンサートに行って書くエネルギーを補給したり、ということはずっとやっていました。でもそれはわたしの創作現場の全く個人的な状況であって、彼の曲を掲げて短篇を連載をするとなると、他のファンの人たちがそれぞれ持っているイメージを壊すことになるのではないか、あるいは佐野さん自身も迷惑な思いをするのではないか、と心配だったのです。
しかし実際やり始めてみると、これほど楽しく書けたことはありませんでした。毎月一曲を選び、それを繰り返し聴いているうちに、どんどん物語が湧き上がってくるのです。曲のイメージを壊すとか壊さないとか、そういう次元とは異なる、もっと奥深いところに小説の言葉がひそんでいたのです。それはたぶん、佐野さんの曲が音楽としてだけではなく、一つの創造物として存在しているからではないでしょうか。
ここにおさめられているのは、書きたくて書きたくてどうしようもないところから、生まれてきた小説ばかりです。
(「あとがき」より)
アンジェリーナ
君が忘れた靴
バルセロナの夜
光りが導く物語
彼女はデリケート
ベジタリアンの口紅
誰かが君のドアを叩いている
首にかけた指輪
奇妙な日々
一番思い出したいこと
ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
水のないプール
また明日・・・
金のピアス
クリスマスタイム・イン・ブルー
聖なる夜に口笛吹いて
ガラスのジェネレ―ション
プリティ・フラミンゴ
情けない種末
コンサートが終わって
あとがき
解説 江國香織
小川洋子:
1962年、岡山市生まれ。早稲田大学文学部卒。88年、海燕新人文学賞を受賞。91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞受賞。2003年刊の「博士の愛した数式」がベストセラーとなり、04年、同書で読売文学賞、本屋大賞、泉鏡花賞、06年、「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞を受賞。著書に「偶然の祝福」「刺繍する少女」「薬指の標本」ほか。
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