千葉雅也の「アメリカ紀行」(文春文庫:2022年5月10日第1刷)を読みました。
大学のサバティカル(学外研究)を利用し、トランプ以降のアメリカへ。「コンビニでは、人が非人称になる」。四か月の滞在で、ありふれた街の光景や人々との会話から見えてきた日本の特性――。気鋭の思想家が「聖なるもの」「二人称」「分身」等について軽妙洒脱に綴り、小説への萌芽となった哲学的紀行。解説・佐藤良明
解説の佐藤良明は以下のように言う。
「働きすぎてはいけない」(2013)は「切断の哲学」という触れ込みだった。「アメリカ紀行」(2019)から私が感じるのは「切断の美学」である。一瞬を写し取った像をもとに、そこから断片的な思考を伸ばすという書き方は、話を大きくしない。前近代的な饒舌さ、厚顔の自己といったものを呼び寄せない。そうなってしまう前に話をへし折る。ある意味、不具にする。そのことで、接続過剰な時代の「不自由」を生きる人たちとの対面の仕方を調節する。ここにあるのは「切断の倫理」だ。
数ページに一枚、iPhoneで撮ったらしい写真が填められている。構図も配置もセンスがよい。だが、目立たせない。わざと無声化されているかのようだ。
目次
押し出される
Are you sure?
エンジョイ
ライシャワー日本研究所
聖なるもの
You
信頼
適応
立体的
Roxbury
I would prefer not to
警報
自己紹介
アレックス
性
Porter Square
Turkey Sausage,Egg and Cheese
社交空間
無関係
分身(ニューヨーク1)
Disability(ミューヨーク2)
David
書かないで書く
実在(ミュンヘン)
二人称
Redemption
肌色(マイアミ)
静電気
当事者
映画(ロサンゼルス)
狭さ
包装(日本)
解説 佐藤良明
千葉雅也:
1978年栃木県生まれ。東京大学教養学部卒業。パリ第10大学および高等師範学校を経て、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。博士(学術)。哲学/表象文化論を専攻。フランス現代思想の研究と、美術・文学・ファッションなどの批評を連関させて行う。現在は、立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。
『動きすぎてはいけない——ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』は博士論文を元にしたもの。紀伊國屋書店じんぶん大賞2013、表象文化論学会第五回学会賞。
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