出光美術館で「生誕300年記念 池大雅――陽光の山水」を観てきました。
伊藤若冲や円山応挙ら、日本美術を変革する個性的な画家たちが輩出され、百花繚乱の様相を呈した江戸時代中期の京都画壇。その中でもひときわ多くの人々に愛された画家に、池大雅(いけのたいが)(1723 - 76)がいます。幼い頃から神童としてその名を知られた大雅は、当時中国より新たに紹介された文人文化に深い憧れを抱き、かの地の絵画を典範とした作品を数多く描きました。一方で自然の光の中で描くことで培った抜群の色彩感覚と大らかな筆致、そして彼がこよなく愛した旅で得た経験によって、本場中国とは異なる、日本人の感性に合致した独自の文人画を創り上げたのです。
本展では、大雅が描いた作品の中から、山水画を中心とする代表作をピックアップして展示いたします。特に大雅が憧れた瀟湘八景、西湖といった中国の名勝と、自身がその足で訪れた日本の名所とを比較しながら、そのたぐいまれなる画業の変遷を追います。
晴れた日には戸外の白砂の上に屏風をひろげて絵筆をふるったという大雅の逸話の通り、その作品の前に立つと、きらめきに満ちた光や爽快な空気に包まれ、遠い中国の地でありながら、その風光の中に立っているかのような錯覚すら感じさせてくれます。厳選された名品を通して、「陽光の山水」と呼ぶにふさわしい大雅芸術の真骨頂を、心ゆくまでお楽しみください。
01 東京では約13年ぶりとなる大回顧展!
池大雅は、江戸時代中期の京都で、当時輸入された最新の中国絵画の画風をもって、与謝蕪村と並んで人気を博した文人画家の巨匠です。出光美術館ではその生誕300年を記念して、山水図を中心に大雅の魅力を余すところなく紹介する展覧会を開催します。東京で大雅の本格的な回顧展が開催されるのは、実に約13年ぶりとなります!
02 国宝・重文の半数以上が出光美術館に集結!
中国から舶載された文人画をもととしながら、大らかな筆づかいと抜群の色彩感覚で他のどこにもない絵画様式を創り上げた大雅は、同時代に活躍した伊藤若冲や円山応挙などとともに、日本美術を変革した画家のひとりといえます。彼の描いたきら星のごとき名作のうち、現在3件が国宝、13件が重文に指定されています。本展ではその半数以上になる国宝2件、重文8件が出品されます。このほかにも、戦前に展示されて以来長らく公開されなかった「餘杭幽勝図屏風」など、選び抜かれた大雅の名品が一堂に会します。
03 体で感じる景観―中国の名勝図と日本の真景図を紹介!
04 大雅を取り巻く人々にも注目!
その画風が象徴するように、大らかで優しい人柄であった大雅のもとには、当時を代表する知識人が集いました。彼らとの交流によって、大雅の芸術はより深められることになったのです。本展では、大雅が参禅した禅僧・白隠が賛を記した「葛の葉図」、友人と三霊山(白山・立山・富士山)を踏破した時のスケッチ帖である「三岳紀行図屏風」、そして与謝蕪村との競演によって創り出された国宝「十便十宜図」など、師や友との交わりによって作り出された興味深い作品も展示します。
展覧会の構成
第1章 光との戯れ —色と墨の競演
第2章 大雅のユートピア —憧れの中国へ
第3章 行道千里 —日本の風光に学ぶ
第4章 四季と八景の庭園 —大雅芸術の頂点
各章の解説
第1章 光との戯れ —色と墨の競演
池大雅は京都銀座の下級役人の家に生まれました。幼い時から抜きんでた書の才能を発揮した大雅は、中国からもたらされたばかりの「文人画」という新しい絵画と出会い、自身の画業を展開していきます。その画風の特徴は、なんといってもその色づかいにあります。晴れた日には画室を飛び出して絵を描いたという逸話の通り、大雅の手にかかると、着色はもとより水墨であっても、きらめく光と開放的な空気をたっぷり含んだ、さわやかな絵画に生まれ変わります。光と戯れる大雅の唯一無二の筆さばきを、まずはとくとご覧あれ。
第2章 大雅のユートピア —憧れの中国へ
大雅にとって、文人画の本場である中国は、見果てぬ夢の地でありました。中国屈指の景勝と名高い西湖、大文人の蘇軾も遊んだ赤壁、そして洞庭湖を擁する湿潤な瀟湘の地 ──こうした名勝を、大雅は親友から借りた中国絵画や版画をもとに描き出しました。そして、少しでも実景に近づきたいと、洞庭湖を描くのに琵琶湖に何度も足を運んで水の動きを観察するなど、中国の名勝図に生命力を吹き込みました。リアリティーあふれる中国の名勝図の前に立って、いにしえの中国の詩人たちと同じ景を体感してみてください。
第3章 行道千里(せんりのみちをゆく) —日本の風光に学ぶ
想像の中で憧れの中国に遊んだ大雅は、現実においても旅をこよなく愛しました。20代半ばで江戸に下向したのを皮切りに、その生涯で東は奥州、西は出雲に至るまで、日本全国をまわっています。とりわけ登山を好んだ大雅は、富士山、立山、白山の三霊山を踏破して「三岳道者」とも名乗りました。こうした旅で実際に訪れ、眼にした日本各地の絶景を、大雅は絵に描いていったのです。ここでは大雅の実感に裏打ちされた「真景図」の数々をご覧いただきます。
第4章 四季と八景の庭園 —大雅芸術の頂点
うつり行く昼夜。めぐり行く四季―時間の流れと、それにともなう気象の変化は、およそ絵画には定着させづらい要素です。大雅はそれを、持ち前の大らかな筆づかいと、繊細な感性によって見事に表現しました。名勝の四季の情景を風情豊かに描き出す瀟湘八景や、四季折々のいろどりをあらわした山水図は、旅に生きた大雅の真骨頂といえるかもしれません。本展のフィナーレでは、その芸術の頂点を示す傑作を通して、「陽光の人」大雅がたどり着いた到達点を見てゆくことにします。
まずは第1章から
第1章 光との戯れ —色と墨の競演
「生誕300年記念
池大雅――陽光の山水」
図録
令和6年2月10日発行
編集・発行:
公益財団法人 出光美術館
「出光美術館」ホームページ
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