井上荒野の「その話は今日はやめておきましょう」(毎日文庫:2021年4月30日発行)を読みました。
「その話は今日はやめておきましょう」という題名がいい。
一人の青年の出現。揺らぎだす夫婦の日常
定年後に待っていたのは
未体験の危うさだった・・・
スリリングな展開一気読み必至!
定年後の日々を、趣味のクロスバイクを楽しみながら穏やかに過ごす昌平とゆり子。ある日、昌平が転倒事故を起こし、一人の青年・一樹が家事手伝いとして夫婦の家に通い始める。彼の出現を頼もしく思っていた二人だったが、やがてゆり子が家の中の異変に気づき・・・。著者の新境地となった第35回織田作之助受賞作。(解説:村松友視)
解説の村松友視は、以下のように言う。
この作品の魅力は、三人の主要人物に著者が転々と焦点を移し変えつつ、先へ先へと読み手をいざなってゆく構成に発している。小気味よいテンポの展開の中に、独特の小説的重層性を仕掛けて、そこに人の心の微妙、曖昧、誠実、移り気、抑制、強気、弱気、一貫性、変転性、自信、不安、度胸、臆病、妄想・・・などをはらませる独特の手並みを、著者は存分に展開させてゆく。読みやすいからといって、流行の速読術などではとうてい歯の立たぬ世界なのだろうという手応えを、読み手は早々に感じるはずである。
井上荒野:
1961年、東京生まれ。成蹊大学文学部卒。1989年「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞を受賞してデビュー。2004年「潤一」で第11回島清恋愛文学賞、2008年「切羽へ」で第139回直木賞、2011年「そこへ行くな」で第6回中央公論文芸賞、2016年「赤へ」で第29回柴田錬三郎賞、2018年「その話は今日はやめておきましょう」で第35回織田作之助賞を受賞。他に「だれかの木琴」「結婚」「悪い恋人」「リストランテ アモーレ」「ママがやった」「綴られる愛人」「あちらにいる鬼」などがある。
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